約 1,530,426 件
https://w.atwiki.jp/blueblack/pages/20.html
缶です。 みんなで、小笠原に遊びにいったら 猫に絡まれたとです。 一張羅の缶がボロボロとです。 みんなネタで笑ってるけど、本人割と必死です。 缶です。 夜明けの船にいってBallsと仲良くしようとしたとです。 いきなり再資源化されそうになったとです。 缶です・・・缶です 缶です…。 「土場藩国 藩王の日記より」 /*/ 土場藩国 アイテム図鑑 小笠原慰安旅行 SS /*/ 話は、前日までさかのぼる。 その日華(ヤガミスキーの一人)はパチン、パチンとホッチキスで旅のしおりを作成していた。 「よし、ちゃんとできた!」 紙をきちんと万中で折り、ページを確認して両端を止める。吏族の手伝いをしていただけあって、なかなかの腕前だ。 明日の旅行なので今日配らないといけないが、おやくそくのところは気合いをいれて作ってみた。 どばはんこく たびのしおり •おやつは3わんわんまで(1わんわん=100円相当) •どんなときもわらいはわすれない •だされたご飯は最後まで食べる •ころんでも泣かない •空き缶はくずかごに 最後はなんとなく不穏な言葉が書いてあるが、そんなことは気にも留めないのがこの国である。この国は何事にも楽しみをみつける国がらであり、うっかりすると藩王片手に缶けりが始まりそうな国であった。所詮藩王の地位など雑草の1つ上程度である。 「よーし、みんなに配るぞ、っと」 ふと知恵者の声で「通った」と聞こえた気がしたが、深いことは気にせずに参加者に渡すことにする。 摂政のは机の上に置いておいて、藩王は中庭にはる藩王の部屋(ダンボールハウス)に渡しにいくことにする。 「おうさまー、いるかなー」 「にゃー」 なんとなくこ汚いダンボールの影から猫が見えた。 「にゃー?」 返事を返すとよってくる。たしか、ペンギンにもらったらしい猫だった。 「えーと、おうさまは?」 「にゃー!」 相手は猫語である。 「えーと、いないの?」 「にゃー!!」 なんとなく意味がわからないが、どうやら出てこれないらしいのはわかった。 「これ、渡してほしいにゃ!」 そう言ってしおりを渡すと、猫は器用にくわえるとダンボールハウスの奥へと消えていった。直後に「いやぁああ、ツメ、ツメやめてツメー」という声が奥から聞こえてきたが。この国ではよくあることである。 「おうさまー、あした遅刻しちゃだめだからねー」 居留守使うのずるいー、と言って華はダンボールハウスを後にするのであった。 /*/ 旅行当日、晴れた空にお弁当、お菓子も用意して参加するメンバーが続々と集合場所にやってきた。寝起きのものもいれば、きっちりと準備してきた人もいる。 華は、用意してきたしおりを片手に全員に声をかけてみる。 「みんなー、しおりはもってきた?」 そう明るく尋ねる華に、まわりの反応は鈍い。 「えーと、みんな?」 んーと眉根を寄せている空き缶。顔を見合わせている犬。 「えーとえーと、しおりーわすれちゃいましたー」 前日もらったものをなぜ忘れる。というよりそもそも見ている気がしない。 「しょうがないなぁおうさまは、誰かにみせてもらいなさい! JAMさんとFARE-Mさんは?」 「いや、おれら犬だし」 「そもそもしおりもてないんだけど…」 「・・・・・」 そういえば、目の前にいるのは犬と空き缶しかない。 「に、にんげんは…」 きょろきょろとあたりを見回すが、悲しいぐらい犬しかいなかった。いや、少しだけいる。整備士のツナギを来た主和である。 国の独自I=Dを作った男、一応真面目な部類に入るのだが、黒オーマとの見合いに出かけようとしたり、実は整備士としてネリさんにあこがれていたりといろいろ複雑な男である。 一応大族として働きたくない、を自称する割には働きものなので、他からの信頼はそこそこにあるはずだ。 「主和さんはもってきてくれたよね」 ちょっと首をかしげつつ聞いてみる。きゅぴーん、と主和の目が光った気がした。 「華さん、しおりなんかよりも華さんの…」 いますぐにでも華の手を握って「やらないか」と言いそうな雰囲気である。 華は思わず身の危険を感じて一歩引いた。 「主和自重!」 あわてて止めに入るものもいれば、「シ自」はたらくのもめんどくさいと略するものもいる。 今から旅行に行くというのに、悲しいぐらい日常風景であった。 「もー、せっかくしおりつくったのにー」 ムダ作業に終わったと思うとちょっとがっくりくるのだが、端っこの方でしおりに目を通してくれている越前藩王の姿をみて少しは救われた気がするのであった。 結論からいうとしおりの感想は聞けないのだが。それでも犬と空き缶に比べれば数段マシである。 「うう、華さんが冷たい。せっかく知恵者にフェザーを改造して、専用I=D華蓮号とか作ってもらおうと…」 当然、上記のようにすみっこでいじけている整備士よるもマシであることは言うまでもない。 「あれ、行先小笠原じゃなくて「海法避け藩国」になってるよ」 指定券を見ていたnicoが気がついた。なにやら、事前に用意していた計画とは違う方向に進んでいるらしい。 「えーと、藩王迎えにいくんじゃね?」 急に予定に組み込まれた参加者一覧を見ながら、呟いた。 「すいません。小笠原じゃなくて行先避け藩国に変更になりました」 すでにクセになってしまったように頭を下げる時雨。参謀の頃からの手腕を生かし、軍事指導とかいいつつエステルと仲良くなっている。わんわん帝国を代表するロリコンの一人である。 (なお、一番のロリコンは嫁が8歳という某国藩王であるが、本人の名誉のため名前は伏せる) 「えー」 「なんでー、なんでー」 「あの夜明けの船がそこにあるって…」 詰め寄られるとつい謝りたくなってしまうのは、アイドレス後半の経験から身に染みついてしまっている気がする。ある意味不幸の男。 グランドクロス(あらゆる方向から圧力がかかってくる立場)の男であった。 本人は「ロリコンではない」と強く主張するも周囲の認識は「ロリコン」というあたりも、彼の不幸の一端であろう。 個性的すぎる人間を乗せて、一路海法避け藩国の夜明けの船へ。 名ばかりの慰安旅行が始まったのであった。
https://w.atwiki.jp/damecool/pages/18.html
とうこうされたSSのまとめです 女「トイレが詰まってから1週間が経ったな」 女「おはよう、男」 男「おは…ぶぉあ!何があった!?爆発か!?」 女「いや、実は昨日2週間ぶりに頭を洗い、今朝起きたらこうなっていて…」 男「…き、昨日までぴちっとしてたのは皮脂のおかげだったのか…」 女「やはり髪の毛など洗うものではないな」 男「…友にセットの仕方教えてもらえ」 女「男、デートをしよう」 男「まずはユニクロで着飾った服を辞めてから言え」 女「しまむらへ行くか……」 女「お茶でも飲むか?」 男「お、悪いなサンキュー」 女「おい、それは違うぞ」 男「へ?どう見てもお茶じゃ・・・」 女「私の一番搾りだ」 男「トイレに行こう、な!」 女「おひ、ほと……」 女「ごほん。おい、男」 男「なんだよ今の変な声は」 女「いや、声出すの久しぶりでな」 男「たまには外出ようぜ……」 男「こ、これはなんとゆう汚部屋!」 女「つうか、自分はダメクールってゆうか溜めクールっすからサーセンwwww」 男「( ゚д゚ )」 男「こっちくんな」 女「クール……何事にも動じない人のことを指すのだな?」 女「つまり、部屋が汚れていようが動じない…」 女「家事全般が出来なくても動じない」 女「仕事が見つからなくても動じない!」 女「これは素晴らしい……素晴らしい人生では無いか!!」 男「単なる開き直りじゃねーか…」 女「冬なんだから剃らなくても良いだろう?」 ちょこちょこ出てくる一行作品が巧くてよろし 女「私のありのままが肯定されているんだろう? 更生など不必要だ」 男「俺には怠けたいがための言い訳に聞こえるぞ」 男「女さ。小はペットボトルにしてるらしいが…お前、大の方はどうしてんだ?」 女「……さすがの私でもその質問は少しヒクぞ」 男「お前が言うな!!俺だってこんな質問したくねぇよ!!」 女「いくら何でも、そっちはちゃんとトイレに行っている」 男「(良かった…本当に良かった……)」 女「ただ、喉元過ぎれば熱さ忘れる、と言うかな」 男「ん…?」 女「出した後、流すのが面倒で」 男「うわああァあああアぁんッ!!」 女「じょ 冗談だ くびを しめるなッ」 女「えぢっし! ぅえじゃいふっ!」 男「……お前のくしゃみ、うちのおとんみたいだな」 女「ほぅ、それは奇遇。お父さんにはよろしく言っておいてくれ」 男「俺はオヤジくさいぞと暗に言ってるんだが」 女「そうだな、最近の女学生はオヤジ化が激しいらしい。 私も例に漏れなかったということか」 男「俺はだらしないところがそれとなく出てきちゃってるぞと暗に言ってるんだが」 女「これが私のアイデンティティなんだろう? 今さらどうこうしようとしても、スレ住人からブーイングを食らうだけだろう」 男「俺はそんなくしゃみしてるとお前の可愛らしさが台無しになってがっかりだと暗に言ってるんだが」 女「んなっ……!? な、な、そんな……えびきしゅっ!」 男「( A`)」 男(スレ住人……?) 女「このスレの住人もなかなかのダメ人間っぷりだな」 男(スレ住人……?) 女「さすがに明日のテスト落とすのは不味い……いい加減に勉強せねば……」 女「……5時46分か。何か半端だな。6時になるまでネトゲ続けるか」 女「ん、レアアイテムイベントか……参加するか」 男「で、気付いたら朝と」 女「そんなこともあったな。懐かしい話だ」 男「都合の悪いことはすぐ思い出フォルダにポイですか」 女「二兎追うやつ負け組プギャーという古事もある。私はレアアイテムという兎を追うことに専念したのだ」 男「留年の兎穴に落ちてもお前はアリスになれないんだからな……」 TV「最近、買い物袋をもらわないよう、『マイ買い物袋』を持参する動きが出てきています」 TV「それに合わせ、メーカー製のおしゃれな買い物袋も登場し……」 女「ふむ……」 店員「合計で、2167円頂戴いたします」 女「あ、袋は……」 店員「はい」 女「……2つに分けてくれ」 店員「かしこまりました」 女(次こそは……! 次こそは……!) 女(うぅ、キツい……半年ぶりに電車に乗ってみればギュウギュウだ……) ――むぎゅうぅ むぎゅぅ―― ――むぎゅ!―― 女(こッ、このピザ、足踏んだ……!) 女(ただでさえストレスたまるのに……このっ) 女(なぜいつまでも気付かないんだ……ピザゆえ……?) 女(くそっ、直接言ってわからせるしかない……!) 女(一言もの申してやる……もの申してやる……!) 女(次こそは……! 次こそは……!) 女「……」 男「お、何だそれ。マッサージチェア?買ったのか?」 女「ん、ああ」 男「どうだ、使い心地は」 女「使い心地はとても良いんだが……ときに男。一つ頼みがある」 男「ん?どうした?」 女「マッサージが一通り終わったんだが、もう一度スタートさせるのが面倒臭い…ちょっとこのスイッチ押してくれ」 男「(指一本動かすのも面倒だと言うのか…ッ!?)」 結論:餌を与えてはいけません 女友1「王道すぎて忘れてるでしょ、スマップ!」 女友2「バンドじゃないじゃんwwwww」 女「まあなんだかんだで、歌えば売れてる感じだな」 女友2「あたしはね、B’zの稲葉さんのヘソがね……」 女友1「オヤジなうえにエロいよwwww」 女「顔も細ければ腰も細い……人間じゃないかも知れないな」 女友1「ていうか歌の話しよーよwwwwwww」 女友2「女はどういうのが良いの?」 女(最近のお気に入りは熱帯JAZZ楽団とPYRAMID……) 女「EXILE……かな」 女友2「おー、ちゃんと歌の話だwwwwwww」 女友1「あたしEXILEアルバム全部持ってるよwwww」 女(次こそは……! 次こそは……!) 女「トイレに行きたい・・・だがめんどくさい・・・」 女「今日は男も来てないし・・・」 次の日 男「ちょっとこのお茶もらうわ」 女「あー」 ああだこうだ 男「お、もうこんな時間か……」 女「よく飽きもせず、一日中汚い部屋の中で過ごせたもんだな」 男「よく言うわwwwwさて、そろそろおいとまするよ」 女「明日は日曜だから、好きなだけ居てもらっても構わないんだぞ?」 男「や、気がついた時に腰上げないと、いつまでもズルズル居座っちゃうだろ?」 女「……」 男「ちょうど良いから、女も今日は早めに寝なよ」 女(私としては、いつまでもズルズル居座っていて欲しい……) 男「どれ、それじゃ……」 女「男」 男「ん?」 女「……カップ麺をいくつか持って帰るか? 男も帰ってすぐ寝るわけじゃないだろ?」 男「珍しい風の吹き回しだなw ありがたい、もらうよ」 女「なんなら女特製ペットボトル入りアバ茶も付けるぞ」 男「そ れ は な い」 女「ジョークだよ。別段目覚めたりはしてない」 男「余計なことを言わなければ疑われないものを……」 女「男! ……寒いから、気をつけて」 男「うん、女もな」 女(次こそは……! 次こそは……!) 言えないダメなクールさんシリーズ、完。お粗末様でした。 【電池】 女「男、そこのリモコンをとってくれ」 男「ちぃったぁ動けよ……はいよ」 女「……む?」 カチカチ… 男「あ、電池切れか?」 女「むむ……」 ぎゅー… 男「いや、強く押しても無理だって……」 女「ふむ」 パカ! 男「?」 ゴロゴロ… カチッ! 女「これでよし」 男「あ?転がしただけじゃ――」 カチ!ピッ! 男「!え、あ、点いた?」 女「ふふ、私を舐めるな。電池がなくなった時の対処法など、もう5年も前に 開発しているわ。こうやってな、転がすと――」 男「買いに行けよ」 女「……それは……めんど――」 男「いいよ。行ってくるよ……そのうち太るぞお前……」 【夫婦】 女「男、おはよう」 男「ん?おはよ。ごはんできてるから、顔洗って来い」 女「めどい」 男「わかったよ。洗ってやる」 女「あーん」 男「はいはい……」 女「もぐもぐ……ん、腕を上げたな?」 男「そっか?そう言ってもらえれば嬉しいよ」 女「うむ。それじゃネトゲするぞ」 男「はい。昼ごはんはそこの机に、電子レンジで温めて食えよ?俺が仕事から 戻ってきたら晩御飯な?」 女「うん。ハンバーグが食べたい」 男「わかった。じゃあ行ってくる」 ちゅ! 女「――っていう夢を見たぞ」 男「……涙出てきた……」 男「あ゛ー昨日のマラソン大会で筋肉痛だわー」 女「男子たるものがだらしのない。私を見習え」 男「普段ほとんど外にも出ないくせに体はしっかりしてんだな・・・」 次の日 男「どうした?また遅刻か」 女「ぐっ、不覚だ・・・!まさか筋肉痛が二日遅れで来るものだとは・・・っ」 男「お前はおっちゃんか」 ダメクールと相良宗介のコラボレーション 女「こんばんは、相良。」 相良「む…」 女「カップ麺があるが食べるか?」 相良「いただこう」 女「あ、お湯がない…。沸かすのめんどくさいし…このまま食べちゃえ」 相良「女。カップ麺とやらはこの固い麺をかじるのか?」 女「そうだ。この粉をかけて食べる。…ふむ、この食べ方はいいな」 相良「(ポリポリ)む…美味いな。だが少し味が濃いような」 女「こんなものだ。…って相良、何してる?」 相良「いや、この部屋の乱雑さは敵の侵入を妨げるよう散らかしてあるのだろう?進路を妨害するように配置を変えようとおもってな。」 女「さすが私だ。」 相良「うむ、さすが女だ。外で敵と遭遇しないために拠点に立て篭る選択も悪くない」 女「相良もそうすればいい。外よりは安全だぞ」 相良「検討しよう…と言いたいが千鳥が怒るのでそれはできない」 千鳥 男「何かシュールだ…」 二人でテレビ観賞 TV「実録!働かない若者達~」 ニート「働いたら負けかなと思ってる」 女「まったく・・・最低限の義務も果たさずに権利のみを主張する。 現代社会にはびこる寄生虫だな」 男(せめてこいつにも『自覚』ってもんがあれば・・・) 男「お前そろそろテスト勉強しないと本気でヤバいよ」 女「いや……私は勉強しないことで皆の役に立ちたいんだ」 男「おう、平均点を下げるとかじゃないよな?」 女「私が勉強しないと、当然私は酷い点を取る。最悪留年するだろう」 男「最悪っていうか、ストレートに留年するぞ、このままだと」 女「そんな悲惨な状況にある私を見て、クラスの皆はこう思うはずだ。『ああ、あんな風にならないよう頑張ろう』。そして輪を掛けて必死で勉強するようになるだろう つまり私は己の身をていして、皆の成績向上に貢献しようとしてるんだ…… だから私は、あえて勉強しないんだ。立派だろう?」 男「……逆にお前が猛勉強して学年首位になっても、皆お前目指して頑張ろうって気になるんじゃね? ポジティブな気分で」 女「よし、蜜柑食べようか」 男「本当の所は勉強したくないだけなんだろ」 女「……まぁ、そういう説もある」 男「諦めて勉強しなさい」 女「(´・ω・`)」 前 次
https://w.atwiki.jp/lls_ss/pages/580.html
元スレURL 【SS】 リリーのアトリエ 概要 錬金術師のオトノキアカデミーからやってきた一人の女の子があれこれするほのぼの物語 参考:アトリエシリーズ タグ ^桜内梨子 ^Aqours ^μ’s ^ほのぼの ^ファンタジー 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/pendange/pages/77.html
希望崎SS 『ミズを使いすぎるな』 【岸間直嶺プロローグ「リボン」】 大矢モニアプロローグSS『イミテイション』 『私の居るない場所』 無題 死にたい人にお薦めの危険な学校鳥取砂丘高校 上毛茜プロローグSS 『ミズを使いすぎるな』 「水が鳥取に無い!おれのところに回ってこない!昨日おれは理由を知った!希望崎の水使いの奴が!水を使い過ぎる!」 「マワッテコナイ!ミズガコナイ!」 「コナイ!コナイ!ミズガコナイ!」 「ミズを使いすぎるな!」 「ミズを使いすぎるな!」 「ミズを、使いすぎるな!」 【岸間直嶺プロローグ「リボン」】 あの日、たまたま俺の鞄の中に入っていた黒いリボン。 あの日、君に渡すはずだった忘れ物。 何もかもが津波に流されて、手の中に残った物は一本のリボンだけだった。 長く伸びた髪を後ろで束ねて、君のリボンでひとつに束ねる。 一目見れば女物と判るが、幸い希望崎にはもっと珍妙な奴は山ほど居る。 ちょっとした服装倒錯にも寛容な、この学園の空気は割と気に入っている。 ああ。俺は過去に縛られている。 取り返しのつかないことを嘆いても意味がないことは知っている。 世界を呪って。魔人となって。暴れ回った愚かなフェイズはもう終了した。 だが、過去を切り離し、君を忘れてしまえる程ドライになれるわけもない。 だから、俺は伝える。 津波の恐怖を。無慈悲な破滅の奔流を。災害への備えの大切さを。 そして、俺の《緊急小津波警報》が誰かの命を救うきっかけになったなら。 君の死も、結果としてプラスになるんじゃないかと思う。 このリボンは、未練ではなく“誓い”なんだ。 そんなわけで、可愛い子がいたら、遠慮なくまた恋するつもりだから悪く思うなよ。 いや、実はもう、ちょっと気になる奴はいるんだ。 そいつは―― 大矢モニアプロローグSS『イミテイション』 その日、兄さんは死んだ。 そもそもの原因は私がプールで溺れてしまったことだった。 自分の不注意が原因だった。両親からもあそこは危険だから近づくなと言われていたのに。 プールサイドにいた兄は私を助けようとして、プールに飛び込んだ。 だがその結果、今度は兄が溺れてしまったのだ。 私があんなことをしなければ兄は今もそこにいたのに。 家に戻ったあともみなが自分を責めているようで辛かった。 大矢コンツェルンの後継者である兄よりも自分が死ねばよかったと言われているようで。 けれどきっとそれはただの被害妄想だったのだ。 家族は私に優しかったのだから。でも、私にはその優しさが辛くて―― だから私は長く伸ばしていた髪を切った。言葉遣いも変えた。服装も部屋も何もかもすべて変えてしまった。 兄さんになりたかった。 自分のせいで死んでしまった兄さんになって自分を殺してしまいたかった。 けれど、そんなことはできないと僕はわかっていたのだ―― ―――― 「夢か…」 窓から差し込む光を浴びて、大矢モニアは目を覚ました。 今もあの頃のことは夢に見る。何度も繰り返される悪夢。 忘れてしまうことなどできない。 大切な兄を自分のせいで殺してしまったのだから。 「そろそろ学校の準備の時間だな」 時計を確認し、パジャマを脱ぐと、クローゼットの中から学生服を取り出しそれに着替える。 男性的な服装に男性的な口調。 それはあの日から続けてきた習慣。兄になりたくて。 けれど、それはただの偽物に過ぎない。そんなことは自分でもわかっていた。 でもすでに身体に染み付いてしまった。 今更変えられないだろう。 イミテーションゴールド。 他者のコピーを生み出す彼女の魔人能力。 だが、それはすべてを完璧には再現できない不完全なコピー。 まるで兄になりたくて、決してそうはなれない自分自身のようだと思う。 着替えが終わり部屋を出ると用意された食事を取り、いつものようにその日も学校に向かった。 『私の居るない場所』 遠くに行きたいな どこか遠くに行きたいな 私はここに居るけれど ここに私は居ない みんなのために何かをするのは好きだけど 自分のために何かをするのはちょっと苦手なの だからみんなの間に私は居るけど 私はどこにも居ないんだ ここは私の居るない場所 私をどこか遠くに連れてってくれる不思議なちからが溢れてる どこに行くのかな ちょっと怖いな でもみんなのためならば私は飛べる気がする ……みんなのため? 自分がやりたいことのはずなのに みんなのせいにしなきゃ何もできやしない やっぱり私はどこにも居ない 無題 ハルマゲドンに関しては俺も動く 抗議デモだよ 具体的には普段はいがみ合ってる各希望崎陣営と連絡を取り合い、短期の新希望崎を発足した 自分でも驚いたが、豪華なメンバーが集まった 当学園最大水使いのリーダー、幹部3人 水使いではないが最大派閥のNo2、No3 学園では有名な、小学生以来一度も喫煙したことがないというヘビースモーカー 戦闘部隊が四十四人いる上毛衆の一員 アキカン辞めて中二力カンストした奴 他に挙げたらきりが無いが、そうそうたるメンバーで総勢20人を超えた 狩れない鳥取はもはやいないだろうという最強集団だ ソロでShimaneを狩った奴もいる。 学園ではスズハラ機関、アキビン、斧部(俺含む)、一家などの超一流だ なによりも強いのは、全員鳥取でのハルマゲドンをぶっ通しで何日も可能だ。 リアル予定が・・・なんて奴は一人もいない はっきり言って、俺らが声を掛ければ学園のJKは半数以上が動くだろう 四天王の連中はらくだ、砂エルフにも顔が利く。奴らの中にもバンされた奴はいうだろう 協力して全員でハルマゲドンしたらさすがに黙ってられないだろう ちょっと顔なじみのGKに話つけてくるわ 死にたい人にお薦めの危険な学校鳥取砂丘高校 •らくだ上がりの8人なら大丈夫だろうと思っていたら同じような体格の20人に襲われた •ユースから徒歩1分の路上で穴洗がおしりから目をだして倒れていた •足元がぐにゃりとしたのでござをめくってみるとサボテンが転がっていた •眼鏡をした旅行者が襲撃され、目が覚めたら眼鏡が破壊されていた •砂泳で旅行者に突っ込んで倒れた、というか泳いだ後から荷物とかを強奪する •宿がニャン崎さんに襲撃され、女も「男も」全員猫にされた •タクシーからショッピングセンターまでの10mの間にメカワームに襲われた。 •バスに乗れば安全だろうと思ったら、バスの乗客が全員魔人蟻だった •魔人の1/3が八百長経験者。しかも接触者が金回りがよくなったという都市伝説から「貧乏人ほど危ない」 •「そんな危険なわけがない」といって出て行った旅行者が5分後キノコまみれで戻ってきた •「何も持たなければ襲われるわけがない」と手ぶらで出て行った旅行者が大切な想い出を盗まれ下着で戻ってきた •最近流行っている役は「門から手を出す役」 金属釘バットを手に持って悪党に殴りかかるから •鳥取砂丘高校から半径200mは人外にあう確率が150%。一度襲われてまた襲われる確率が50%の意味 •鳥取砂丘高校における亀甲縛りによる死亡者は1日平均120人、うち約20人が外国人旅行者。 上毛茜プロローグSS 20XX年某月某日。 都内に位置する私立希望崎学園は、その面積の大半を砂漠地帯が占める鳥取に転送された。原因は不明。 当時学園内に居た生徒も転送に巻き込まれる。 その中には潜入捜査をするために希望崎高校に入学していたグンマー人、上毛茜も含まれていた。 ◇◇◇ 「喉乾いたなぁ……」 「こっちに飛ばされる前は蛇口を捻れば水が飲めたのにね」 「まぁ砂丘学園が厚意で水を分けてくれてるんだし、そう文句をいうなって。」 希望崎の生徒達の何気ない会話。 ここ数日の取り留めのない話の中には、現状への不満が混ざることも多かった。 「……その水なんだけど、鳥取の人達水の配給をケチってるって噂があるみたいだよ?」 そっと。事実無根の噂を流す。 無論こんな程度の低い嘘をついた所で本気で信じられるとは思ってない。ただ、少しでも彼らの不満に指向性を持たせることができればいい。すなわち、現状に対する不満を砂丘高校に対する不満へとすり替えるのだ。 「マジでー? 鳥取の奴ら、どうもきな臭いと思ってたんだよなぁ。」 「私たちがこっちに来てから、あっちはしばらく水の配給について揉めてたみたいだもんね。」 「いや、彼らだって生活が掛かってるんだからそれはしょうがないんじゃないかなぁ」 やり場のない負の感情を持て余している時、明確な捌け口を求めるのは至極当然な心理である。特に、現在の様な非常事態であればそういった心理はより一層強く働く。 仲間たちの反応は茜にとっておおよそ想定通りの感触だった。 この調子で少しずつ、少しずつ希望崎学園の生徒の鳥取砂丘高校に対するヘイトを増やしていければ。 ――――希望崎学園VS鳥取砂丘高校のハルマゲドンを引き起こせるかも知れない。 そんな企みを心の内に隠し、人懐っこい笑みを浮かべて会話を続ける。 ……心の何処かで微かな罪悪感が生じ始めていることに気づかないふりをしながら。 ◇◇◇ 希望崎学園が転移してから、茜が真っ先にやろうとしたことは上毛衆の隊長への連絡だった。 上毛歌留多を持っている者同士でのみ会話できる、呪符を媒体とした通信で連絡をとった。 【※ここから先の一連の会話はグンマー独自の言語で話されますが、理解できる人はいないと思われるので日本語に翻訳して書かれています】 『ハルマゲドンだ』 現状を伝えると、隊長はしばらく考えるような間があった後そう呟いた。 「ハルマゲドン、というと希望崎学園でよく行われる魔人闘争ですか?」 『然り。鳥取砂丘高校と希望崎学園を対立させ、ハルマゲドンを引き起こすのだ』 「……しかし希望崎学園に手を出すのはまだ早いと、この間の定例会議で決めたはずでは?」 『それは我々が直接希望崎に侵攻するかどうかの話だ。砂丘高校と希望崎が争えば、我々の手を汚さずして希望崎を潰せるかもしれん。絶好のチャンスだ。』 「でも……!」 『くどい。それとも何だ、貴様が単騎で希望崎を滅ぼしてくれるというのか?』 「それは……」 『不可能だろうな。希望崎を叩くなら機会は物資が足りず弱体化している今しかない。奴らは戦力として非常に危険だ。しかし残念ながら上毛衆から援軍を出すことは出来そうにない。皆それぞれの任務で忙しいし、鳥取の奥地となると遠すぎる。だからこそのハルマゲドンだ。これなら貴様一人でも希望崎を貶められる可能性は高いだろう。』 できれば、共に過ごした仲間を地獄へ落とすような真似はしたくない。 ゆっくりと言葉を選び、隊長の説得に掛かるが……。 「その希望崎の危険性ですが、あくまでグンマーの近隣地域にあったが故に危険視されていたはず。鳥取に飛ばされた今ならば、それほど脅威ではないのでは?」 『確か原因不明の転移なのだろう? もし何かの拍子に関東に戻ってきたらどうする。物資は補給され、希望崎は万全の状態となり、再びグンマーの身近に位置する脅威となるだろう。そうなる前に叩いて置かねばならん。何か文句はあるか?』 「……いえ」 (駄目だ。恐らく、何を言おうが隊長は意見を変えたりしないだろう……) 『これは命令だ。ハルマゲドンを引き起こせ。成功すればそれなりに報酬は弾んでやろう。』 「……かしこまりました」 通信が切れた。 (やるしかないのか……) ――援軍は来ない。潜入している学校でハルマゲドンを起こす。 この作戦には大きなリスクがある。 それは、扇動する本人がハルマゲドンに巻き込まれる可能性だ。直接戦闘に参加しなくても、そもそもの目的である「希望崎の負け」が決定すれば水の供給が断たれ茜は他の生徒と共に野垂れ死ぬ。 隊長は頭は固いが、決して馬鹿ではない。そういった事態も予想済みだろう。 つまり、茜は使い捨ての駒扱いをされたというわけだ。 この任務は希望崎の生徒達にとっても、茜本人にとっても得にならない。 暗鬱な思いを抱きながら、茜は任務に取りかかりはじめた。 ◇◇◇ 水が少しずつ不足していく。 希望崎には水を大量に消費する魔人も居るため、砂丘高校からの配給では足りるはずもなかった。 希望崎学園はもっと水を寄越せと要求し、鳥取砂丘高校は水の消費を抑えろと反発する。 茜が少しずつ煽り立てた功もあって、二校の溝は深まっていく。 それと同時に罪悪感も徐々に茜の精神を蝕んでいく。 敵地だと教えこまれ、潜入した学園の生活は思いの外楽しくて。 機密部の皆は私の正体を知った上で情報を秘匿してくれて。 使命と罪悪感の狭間で揺れつつも、茜は扇動の手を止めることができなかった。 ――――誰かが、きっと誰かが止めてくれる。 そんな甘い願望を縋るように抱いて、任務を遂行していった。 ◇◇◇ 遂に水不足により倒れる人が出てきた。 希望崎、砂丘高校の両方でハルマゲドン開催を望む声が上がり始め、学校内で開戦派と穏健派の派閥が生まれた。 茜は穏健派に所属した。 抑圧が強ければ強いほど人は反発するものである。それを利用して、茜は穏健派として過激派を抑圧することでより過激派の活動を活発にした。 「武力で解決しても何も生みません。平和な解決方法を探しましょう。」 そんな心にも思ってないことを何度口にしただろう。 ……あるいは、本心からの言葉だったかもしれないけど。 過激派の一人はこう語った。 「このままでは二校とも共倒れだ。現状を維持して何になる? 俺は、仲間たちが次々と倒れていくのをただ見ていることなんてできない! 鳥取の人達を犠牲にしてでも自分も仲間たちを守りたいと思うのは、そんなおかしいことだろうか? そして向こうだって同じようなことを考えているはず。もはや衝突は避けられない。ならば、いっそ戦うなら、ゲリラ戦になって泥沼化し始めるという最悪の事態を避ける為にも、明確な勝利条件のあるハルマゲドンを開催するべきだろう!」 彼の考えは少し過激だけど、学園の仲間達を真剣に想う熱意は伝わってきた。 (過激派も穏健派も根本は同じ。皆が皆のことを思って行動している。ただ目的の為に選んだ手段が違うだけだ。それに比べて私は、私は一体何をやっている……?) ここに来て生じ始めた孤独感、疎外感とも言える寂しさ。 仲の良い友だちと話していても、その寂しさが紛れることはなく。 むしろ彼らの笑顔が鈍痛となって心に重く響いてくる。 この寂寥感はきっと罪の意識から生じたもの。 茜の企みの内容からすれば当然ともいえる仕打ちだろう。 計画は成功に近づいているはずなのに、茜は精神的に追い込まれていく。 もうきっと止まらない 今更茜が扇動を止めようが止めまいがいずれにせよ大好きな友人達は命懸けの闘いへと身を投じることになる。 (私は…………わ、たしは…………) 任務と仲間を比べた天秤がぐらり、と揺らいだ瞬間だった。 ◇◇◇ 派閥発生から数日が経ち、水の盗掘未遂事件が発生した。 誰が犯人だったかなど、もはやどうでもよかった。 状況が起こした当然ともいえる帰結であり、例え今回の事件がなかったとしても今後似たような事件は発生していただろう。 ただ一ついえることは、この事件が両校の間に決して埋めることの出来ない亀裂を刻み、事態は急速にハルマゲドン開催へと動き出したということ。 そして。 「番長グループに引き続き、生徒会でもハルマゲドン開催が決議されたぞー!!」 ハルマゲドン勃発。 「マジすか」 「生徒会マジクール」 「今回は生徒会だの番長グループだのって内輪もめじゃねぇ、俺達希望崎が全員一丸になって砂丘高校をぶっ飛ばすんだ。テンション上がってきたぜ―!」 「鳥取の地平線に勝利を刻むのです!」 「気合!いれて!いきます!」 開戦の知らせに盛り上がる希望崎の生徒たち。 喧騒に包まれる中、茜は一人悪寒に震えていた。 「――――あぁ、遂に。」 これで、上毛茜は使命を果たした。 希望崎学園と鳥取砂丘高校は潰し合い、どちらか一方あるいは両方が潰える。 「……ぅ。」 突然、胃のあたりから何かがせり上がってくる気配を感じて、茜はトイレに駆け込んだ。 「……っ。…………っ!……はぁ……はぁ……」 胃の中身をほとんど吐き出した。 口から胃液を垂らすほど吐き出しても、足りないと言わんばかりに身体はえずく。 突如発生した身体の異常に、しかし茜はなんとなく原因を理解していた。 (多分精神的なもの……。自責の念に駆られて、とかそんな感じかな) 胸が痛い。 ハルマゲドンは遊びじゃない。人が死ぬ。 下手すれば戦闘に参加する全員が死ぬかもしれない。たとえ勝てたとしても、無傷の完全勝利とは行かないだろう。 茜は涙で瞳を滲ませながら嘆く。 (私のせいだ……。全部……全部……吐き出して消えてなくなってしまえ。使命も。上毛衆という肩書きも。) そこで、ふと気づく。 (……あぁ、そうだ。消そう。今の私にいらないもの、全て。) 立ち上がって、個室からでる。 颯爽と歩き出した茜の目には固い決意が宿っていた。 ◇◇◇ 上毛衆の隊長との呪符による通信を試みる。 なかなか相手が応じない。苛立ちが募る。 だが、この通信を使うのも最後となるはずだ、と思うことで焦りを抑える。 【※ここから先の一連の会話はグンマー独自の言語で話され(以下略】 『茜か。どうした』 繋がった。 すぅ、と息を吐き出し呼吸を整える。 「……命令通り希望崎学園VS砂丘高校のハルマゲドンを引き起こすことに成功致しました」 『そうか、大儀だ。ハルマゲドン本戦の際に参戦メンバーに選ばれないよう、しばらくは目立たぬ様に行動するといい。貴様も命は惜しいだろう。』 友達を死地に向かわせておいて、自分は安穏とした立ち位置にいられるか? ――そんなもの、答えは決まっている。 「いえ。私は参戦メンバーに立候補しようと思います」 『……何?』 「そして今この時をもって、私は上毛衆を脱退しようと思います。今までありがとうございました。」 『!? 貴様、自分が言ったことの意味がわかってるのか!』 「許可無く脱退する者はかつての同胞の手によって“消される”のでしたよね? ええ、結構です。やれるものならやってみて下さい。確か、せっかく希望崎を潰すチャンスなのに援軍を出すことすら出来ないほど皆多忙なのでしょう?裏切り者一人殺す為に人材を派遣できるほど余裕があるんですかね……?」 『…………。何故だ? さっきから訳が分からない。何が貴様をそうも駆り立てる?』 「やりたいことがあるんです。上毛衆にいたら、恐らくそれは成し得ることが出来ない。」 『やりたいこと、だと?』 「希望崎の仲間たちの役に立ちたい。ただ、それだけのこと。彼らの為になら命を投げ打つことだって惜しくもありません。」 『その仲間たちを死地に追いやったお前が、か? なかなか滑稽なことを言うじゃないか』 「ええ。だから、その罪滅ぼしをしたい。簡単に償えるような軽い罪ではありませんが、上毛衆の名を捨てて、希望崎の生徒としてハルマゲドンに参戦することで少しでも罪を償いたいのです。」 『……ハルマゲドンが終わる頃には余裕もできるだろう。なにやら偽善に酔っているようだが、それも本戦終了までだ。生き残っているならお前の命を、死んだなら上毛歌留多の回収に隊員を回すつもりだ。貴様はいずれにせよ死ぬ定めとなる。』 「そうですか。ハルマゲドンでの生存率は低い。そして上毛衆の追手も返り討ちにできる自信はない。ですが私もむざむざとやられる訳にはいきません。生き残っていたならば自分で、死んでしまったなら仲間に託し、私の持っている上毛歌留多をこの鳥取の広大な砂漠に廃棄します。以後、見つかることはないでしょう。これで“上毛茜”の座は永久に失われます。……ざまあみやがれ。」 『貴様ぁーッ!!!』 通信を切る。 晴れ晴れとした気分だ。 皆が集まる場所に戻ると、既に作戦会議や参戦メンバーの募集が始まっていた。 「あの、私参戦しようと思います!皆の為に頑張りたいんです」 嘘偽りではない、本心からの言葉。 仲の良い友人の数人は心配するような顔でこっちを見てきた。 私はそれにはにかんで手を振る。 ――こんな私にも、心配してくれる人がいる。 ――優しい人達。 ――彼らの為に報いよう。死に物狂いで戦おう。それが、私に出来る唯一の罪滅ぼしだと思うから。 【END】
https://w.atwiki.jp/is_sevenspiral/pages/335.html
ここはゴロネコ藩国の市街地が一望できる丘… 藩国では近代発展が進んできている。しかし、発展による森の衰退…環境問題が問題視されていた。丘の所で活気づいている市街地を見ている面子がいた… 「……活気づいてるか…」 「良いことなんだろうけど…」 連日の政策会議で寝不足気味のウルと武田二人。 武田「藩王さんと摂政さんはほとんど寝てないらしいっす…」 ウル「……藩王様と摂政さんが頑張ってるんだから、僕らもちゃんと支えないとね」 王宮では対策会議で夜遅くまで会議を続け、無いときは各自自主的に発展してる藩国内を治安悪化防止の為見回りや、休憩を取っている。見回りの成果もあり騒ぎは起きていない。 今回二人は不法に伐採をしている業者がいると、藩国内に散らばっている忍者達の報を受け警戒、丘で伏兵の形で待ち伏せしている。 「…来たぞ」 「人数は?」 「7…8と…」 「後方はアムさん達忍者部隊に…」 伏せていた忍者達と連絡を取り合い、準備万端。 武田「いくか…」 ウル「ここで何してるのですか?ここから先は環境保護区ですよ…?」 業者「あ、……その……」アム「……(右手を上げる)」 優しく話し掛けたウル、アムは右手で合図をし他の忍者に退路を封鎖させた。 武田「目立たないように徒歩でくる…」 業者「ご…ごめんなさい…」 ウル「忍者さん達が頑張った結果だよ…元も取れてるから…。」 武田「…」 業者「……」 落胆した業者。 アム「貴殿らには警察立ち会いの元、取り調べを受けてもらう…」 ウル「然るべき処置はその後に…(忍者達を見る)お願いします。」 忍者「では、こちらへ」 ガックリした様子で、忍者達に王宮に連れていかれる不法業者達。その背を見てしょんぼりする面々… アム「下にあった牛車と馬車は確保したでござる」 武田「近代発展しても心まではまだ追い付いてないのかもっす…」 ウル「やらなくなるまで根気よく誠意ある態度で取り締まろう。」 武田「人は城人は石垣人は堀情けは味方仇は敵なり…人の和こそ最大の城っす。」 アム「Σ武田熱あるのか?」 ウル「Σ武田が武田を語った!」 武田「誉められてる?」 一人の忍者が近づいてきた。 忍者「…お三人方、撤収準備できました。」 ウル「了解。」 アム「忍者諸君お疲れさまでござる。いったん王宮に戻ろう。」 武田「他のみんなは?」 忍者「駅、学校、市街地、観光地、重要施設に散らばり見回りをしています。なお、市街地、観光地では民間の消防団が見回りを手伝ってくれてます…」 アム「おお、ありがたいでござる…」 忍者「僭越ながら提案が…」 ウル「はい。」 忍者「ありがとうございます。王宮に戻られたら少し横になられたほうが良いかと…」 武田「…おう。」 忍者「おお、よかった。」 武田は歩きだした。 ウル「Σちょっ!たけ…」 アム「了解した。取り調べのさいは拙者かつくでござる。」 忍者「はっ!」 ウル「(アムさん…)」 忍者達は風のように去っていった。 アム「とりあえず、上の者が休まねば忍者さん達も心安らかに休めないでござる」 ウル「あ、そっか…気をつかってもらって…(しょんぼり)」 アム「藩王様と摂政さん達にも横になるよう言ってみるでござる。」 ウル「しかし…上の人が奮起してるの見てついてく人も奮起するってのありますけど、逆もありますね…」 アム「休むのも仕事でござるよ(笑)」 そう言うと、アムはジャンプして木に上った。 アム「先に戻るでござるよ~」 ウル「Σわっ!まってー」 藩国では近代発展しつつ、森を守ろうと頑張っている。その願いと想いはいつの日か叶うだろう…。 文 武田”大納言”義久
https://w.atwiki.jp/damecool/pages/19.html
とうこうされたSS 男「お前そろそろテスト勉強しないと本気でヤバいよ」 女「いや……私は勉強しないことで皆の役に立ちたいんだ」 男「おう、平均点を下げるとかじゃないよな?」 女「私が勉強しないと、当然私は酷い点を取る。最悪留年するだろう」 男「最悪っていうか、ストレートに留年するぞ、このままだと」 女「そんな悲惨な状況にある私を見て、クラスの皆はこう思うはずだ。『ああ、あんな風にならないよう頑張ろう』。そして輪を掛けて必死で勉強するようになるだろう つまり私は己の身をていして、皆の成績向上に貢献しようとしてるんだ…… だから私は、あえて勉強しないんだ。立派だろう?」 男「……逆にお前が猛勉強して学年首位になっても、皆お前目指して頑張ろうって気になるんじゃね? ポジティブな気分で」 女「よし、蜜柑食べようか」 男「本当の所は勉強したくないだけなんだろ」 女「……まぁ、そういう説もある」 男「諦めて勉強しなさい」 女「(´・ω・`)」 女「勉強?なに、明日のテストまで後15時間もある」 女「まずは机の整理から始めるか……」 女「ん? こんなところに懐かしい漫画が……」 【燃え~】 女「男」 男「なんだ?」 女「すごいことを言ってやろう」 男「??なんだよ?」 女「家が燃えた」 男「……は?」 女「いやな、だから燃えた。ごみの山から出火してな……あいにく一人暮らしで ほかの住人も居なかったし、すぐに消えたので被害は小さい」 男「!!?お、おまっ!?ええっ!?」 女「しかしな……アパートを追い出された……」 男「あ、当たり前だろ!だからあれほど片付けろっつったろうが!バカ!ほんっとバカだよお前!!」 女「…」 男「どこまでだめなんだよお前!?学校は!?制服は!?どうすんだよ!」 女「……もう……どうすればいいかわからん……」 男「……住むあては?」 女「あるわけないだろう……実家にも帰れん……私は……なにもかも失った……」 男「…」 女「……ひっく……うぅ……」 男「ほら、行くぞ」 女「……え?」 男「いろいろ説教したいけど、とりあえず俺の家に行ってからだ。ほら、早く行くぞ!バカ!ダメ女!!」 女「え?え?あ……」 男「死ななかっただけよかったと思えよ!?ほんっと心配ばっかかけやがって!ほら!行ーくーぞ!」 女「……はい……ぐすん……」 夏休み明け 男「女ー、どうせ一人じゃ学校行かないだろうから、迎えに来てやったぞー」 女「全くいいおせっかいだ・・・・。ちょっと待っていろ。支度する」 ガチャッ 男「よーおはよー」 女「おはよう。・・・くっ、二ヶ月ぶりのお天道様か」 ピリリリリリ… 男「ん、女か。…もしもし」 女『男、すまないが私の家に来るならケーキを買ってきてくれ』 男「おいおい、いつ俺がおまえんちにいk」 女『お願いだ。何か甘いものを食べないと死んでしまう・・・うぅう…』 男「……はいはいわかったよ。ったく…」 女『モンブランがいいな。あ、あとすまんが牛乳もお願いしたい。愛してるぞ、男』 男「……」 男「ほら、買ってきたぞ…ぬっふ!(以前にもましてすっぱい匂いが…)」 女「おお、助かった。恩に着るぞ。」 カチャカチャ…もふもふ 男「じぃー…」 女「…ん?どうした」 男「…お前、太っただろ」 女「なぬ?」 女「最近・・・こないんだ」 男「?こないって、へっ・・・・ええええ!!!!で、でもちゃんと避にn」 女「こないんだ・・・ギルマスが」 男「ネトゲか!」 女「まずい・・・カード破産の危機だ」 男「えぇぇぇ!お前みたいのがカード持っちゃ駄目だろ・・・どうすんだよ」 女「もう貯金も底をついた。なかなか当たらないものだな・・・レアカードというものは」 男「トレカか!」 女「馬鹿な。わたしはもともと太らない体質で…」 男「じゃあこれはなんだよこれは」 女「んっ!……いたい、くすぐったい…わき腹をつまむな。」 男「まったく…こういう不摂生な生活を送ってるからこうなるんだぞ」 女「(なんてことを言う…。さすがのわたしも少し傷ついたぞ…。…そうだ、だいたい 男がわたしに優しくしすぎるから甘えてしまって…)」 男「ふう、だからさ、いっしょについててやるから、ちょっとダイエットしような」 女「(め、めんどくさい…)…わかった」 男「よし、いい子だ」 女「…けどこのモンブランは別だよな。明日からはちゃんとダイエットするからな」 男「……(うわー、すごい名残惜しそうに食ってるよ…。だめだな、これは)」 女「うん、今日で最後、明日から明日から」 男「うわ!ど、どうしたんだよ、お前が日焼けしているなんて」 女「うむ、ちょっと有明の方までな」 男「有明・・・?海にでも行ったのか?」 女「いや、東京国際展示場だ」 男「コミケ焼けですか・・・」 女「明日から明日から」 男「…明日卒業式だぞ?」 女「(´・ω・`)」 女「男か?ついでにドンキでマジックハンド買ってきてくれ」 男「学校で携帯充電すんのやめろって・・・」 女「やはりこの漫画は面白い……アニメ化されるだけはあるな」 女「まだテストまで12時間ある。余裕だな。よし、ようつべでちょっとアニメ版を見てみるか……」 女「面白かったな、ん?作中作までアニメになっているのか、これを見ない手はないな」 数時間後 チュンチュン… グーグー 女「…っは、朝か」 女時計を見る 女「…まあ今更やっても遅いだろうしこのまま時間いっぱいまで寝てしまおう」 男「よう、来たぞー。」 女「………」 男「女?寝てるのか?」 女「………」 男「お、おい…どうしたんだよ。」 女「………」 男「おんなぁぁぁぁああああああああ!!」 女「…ぁ…お、男、か…」 男「ど、どうしたんだよ、こんなにやつれちまって…あれから3日しか経ってないのに…」 女「ぅ…お、男に…嫌われたくなくて、な…。ダイエット…し…て…」 男「ま、まさか…この3日間何も食ってなかったのか!?」 女「…コクリ」 男「おまっ………ちょっと待ってろ。すぐ、何か作るからな!」 女「す、すま…ない…」 男「ほら、いますぐ食え」 女「ぁあぁ…たまごぞうすい…ありがとう…お前は命の恩人だ……いただきます… ハムッ、ハフッ、ハフッ!…ゲフッゲフッ!」 男「もうちょい落ち着いて食え」 男「お前、今日の晩飯もまた・・・」 女「カップラーメンだ」 男「ったく・・・俺が飯作ってやるわ。スーパー寄ってくぞ」 女「すまないな、また」 男「ま、もう慣れっこさ」 女「文武両道、炊事洗濯も完璧。お前が身近にいると、異性の理想が高くなってしまうな。ふふ」 男(お前が身近にいると、どんな女でも仲良くなれそうだわ・・・) 女「男、株に手をだ――-」 男「ネオNEETになるから辞めとけ」 女「男、人参は入れるなと言っただろう。これで何度目だ」 男「てめえ・・・」 女「ごちそうさま」 男「…1分と12秒…お前はギャル曽根か」 女「ふぅ、わたしは幸せだ」 男「…ダイエットってのは絶食じゃないんだ。死んだら元も子もない。 頼むから心配掛けさせるな。」 女「…わたしなりに頑張ってみたんだがな。初日はネトゲーのおかげで空腹 であることにも気がつかずに済んだんだ。しかし2日目の夜中に、 やつは襲ってきた。おぞましい……」 男「ああ、今わかった。お前頑張りの指針がちょっとぶっ飛んでるんだね」 女「お前は他人の意見に耳を傾けすぎだ。一人でも生きていける強さを持つがいい」 男「お前はもうちょっと俺の意見聞いてくれ。俺なしでも生きていける強さを持ってくれ」 男「お前の服って濃いめの色が多いよな」 女「ああ、薄い色だとすぐに黄ばんでしまうからな」 男「…」 女「まったく・・・これがゆとり世代という奴らか・・・」 男「いや・・・その・・・俺たちもゆとり世代なんだ・・・」 女「バカな、私は円周率3.14と教わったはずだ・・・」 男「例え世代が違っても、お前は間違いなくゆとりを持ちすぎだ」 男「しかしゆとり世代か……。それだけで馬鹿にされんのも何か癪だな」 女「ゆとり世代であろうとなかろうと、その人の本質には全く関係ないというのにな」 男「珍しく良いこと言うな。見直したぜ」 女「そう、私が良い例だ。どちらにせよ私は、ろくに学校にも行かずネトゲにはまって昼夜逆転どころか昼か夜かも分からない部屋に篭り男に世話してもらって何とか生き伸びるような毎日を送っているに違いないのだからな」 男「うん、全力で前言撤回するわ……」 良く分からんがひとつ 男「…」 女「…?どうした、私のみりきにメロメロか?」 男「お前何日前に風呂に入った?」 女「確か一週間前と…」 男「ふむ」 女「先週言った」 男「入れ人間の底辺」 男「無理矢理銭湯に引きずってったが……何時間入れば気が済む…」 ?「さっきから居るぞ。湯冷めするくらいな」 男「…………どちらさまですか?」 女「酷いではないか、男よ。私だ」 男「beforeとafterが変わり過ぎだろぉぉぉぉ!!」 女「銭湯は親切だな」 男「何がだ?」 女「まさか入浴中に給水できるとは…」 男「……そいつは湯船にあったか?」 女「うむ。腹一杯飲んできた」 男「そいつは温度が高い時に冷ますやつだよバカ…………」 男「お前は俺が来れなくなったりしたらどうするつもりだよ?」 女「それは困る」 男「それなら困らないように自立しろよ」 女「嫌だ」 男「なんでだよ・・・・」 女「だって男が世話しに来てくれなくなるじゃないか」 男「おい!早くしろよ、遅刻するぞ!」 女「私にかまわず先に行ってくれ。男まで遅刻してしまうぞ」 男「お前も走れば間に合うだろうが。すこしはやる気を出してくれ」 悠長に歩く女の手を必死に引っ張る男 女「そうだ。いい案を思いついたぞ男。明日からローラースケートを履いてこよう」 男(俺が引っ張っていくこと前提で考えてるなコイツ) 女「トイレットペーパー代えるの面倒だな………ま、いいか」 女「お、チーズになってる。」 女「納豆は元々腐っているから平気だ」 女「ニートの何処がダメなんだ?」 女「ふむ、まだヨーグルトか」 男「今、『まだ』っつったか?」 女「私にも肩書きができたようだが、ニートってなんだ?」 男「たとえお前がニートだろうと、俺はお前をニードだよ」 男「これは・・・化石!?」 男「なぁ、この汚汁パックなに?」 女「漬物だ」 女「おはよう」 男「おはよ・・・ちょおま、もしかしてYシャツの下・・・ノ、ノーブラか!?」 女「ん?そうだが?」 男(透けそで透けない乳首に興奮すべきか・・・恥じらいのなさに萎えるべきか・・・) 女「もっと世の中から仕事が減ればいいと思うのだよ」 男「いきなりどうした?」女「いやな、そうすれば必然的にNEETが増えるだろう?そうなれば別に働かずに毎日だらけていてもそれが普通になるわけだ?」 男「仮にそうなったとしてお前の生活費はどこから出てくる?」 女「それは男が養ってくr…」 男「とりあえずその他力本願な考え方は辞めような?」 前 次
https://w.atwiki.jp/yuiazu/pages/2913.html
目が覚めると目の前に中野梓がいた。 梓 『・・・・・・・・・・・・』 目の前にいる中野梓は布団の中で目を瞑りピクリとも動かない。 今の私は中野梓の横たわるベッドの上にふわふわと浮いている状態だった。 梓 『・・・え?え?・・・な、なにこれ・・・・・・?』 混乱して自分の体を見ると半透明に透けている。 梓 『・・・わ、私・・・死んじゃったの・・・・・・?』 今の私は魂とか幽体とかそういう状態だろうか。 あ、もしかしたら幽体離脱というやつなのかもしれない。 目の前にある私の体に入れば元に戻れるかも・・・ とりあえず自分の体に重なってみる。 梓 『・・・・・・・・・』 しばらく重なったままじっとしてみたが体に戻れる気配はない。 と、いうことは・・・・・・ 梓 『やっぱり私、死んじゃったんだ・・・・・・』 呆然とする。 まさか16歳の若さで死んでしまうとは思わなかった。 もう先輩達と演奏することもできないんだ・・・ 梓母 「梓ー。そろそろ起きなさいよー」 一階からお母さんの声が聞こえてきた。 ごめんね、お母さん。私死んじゃったみたい。 もうすぐ私の部屋に入ってきて私が死んだことに気づいちゃうんだろうなあ・・・ お母さん悲しむかなあ・・・ 梓?「・・・・・・うーん、もうちょっと・・・・・・」モゾモゾ 梓 『えっ!!?』 私の死体が・・・動いた!喋った!? ていうか動いて喋ったという事は死体ではない。 えっ?・・・・・・ていうことは私は死んでなかったってこと? ・・・・・・なんだ・・・良かったぁ・・・ホッ ・・・・・・ん? じゃあ今の私はなに? 私が中野梓の魂的なものであるなら目の前にいる中野梓の体は動かないはずじゃないの? え?え? 再び混乱し始める。 私は・・・私は中野梓。私立桜が丘高校2年1組。軽音楽部所属、リズムギター担当。 組んでるバンドの名前は放課後ティータイム。 部活の先輩は唯先輩、澪先輩、律先輩、ムギ先輩。後輩はトンちゃん。 仲のいいクラスメイトは憂と純。 ・・・うん。間違いない。私は中野梓だ。 となると・・・・・・今目の前で起きるのを渋っているのは誰? ガチャッ 梓母 「ほら、いいかげんに起きなさい!」 お母さんが私の部屋に入ってきた。 梓?「・・・・・・はーい・・・」ファーア・・・ 梓 『お母さん!私はこっちだよ!』ブンブン お母さんの目の前で手を振ってみたがどうやら私の姿は見えていないし声も聞こえていないようだ。 梓 『なにこれ・・・・・・』 つまり私は寝ている間に幽体離脱的なことをしてしまって魂が体から出てしまった、 そして今私の体には別の『誰か』が入って体を動かしている、ということか。 そしてどうやら私の体を動かしている『誰か』にも私の姿は見えていないようだ。 ふわふわと浮いている私を気にも止めず着替えを始める『誰か』。 ――――――――― 梓?「いってきまーす」 まだ現状を理解しきれていないがとりあえず私はこの私の姿をした『誰か』についていくしかなかった。 私の体で勝手なことをされては堪らない。 とは言っても勝手なことをされたとして、今の私にそれを止める方法があるとは思えないんだけど。 どうやら誰にも見えていないし声も聞こえていないようだ。 そして物に触れることもできないので、ただ見ていることしかできない。 一つ期待していることといえば・・・純だ。 確か以前純は『私わりと霊感強くてさー。結構見えちゃう人なんだよねー』なんてことを言っていた。 今の私が霊的な存在ならば霊感の強い人ならもしかして見えるかもしれない。 そんなことを考えながら私の姿をした『誰か』の後をふわふわとついていくと、 純 「あ、おはよー梓」 ナイスタイミング! 登校中に純と出会うことは滅多にないのだが今日に限って会えるとはラッキーだ。 梓?「おはよう純。今日は珍しく早いね?」 梓 『純!純!見えてる?聞こえてる?私が本物の梓だよ!』バタバタ 純 「へへへ、目覚まし見間違えて一時間早く起きちゃった」 梓?「唯先輩と一緒じゃん・・・」 純にはがっかりだよ・・・・・・ なにが霊感強いだ! なにが見えちゃう人だ!! 嘘つき!全然見えてないじゃん!! ・・・・・・はあ。まあいいや。見えないのはしょうがないとして 純なら喋っていればきっとその『誰か』が私じゃないと気づくだろう。 私の体に入っているのが誰なのかは知らないがそのうちボロが出るはずだ。 ―――――― ・・・・・・私の期待も虚しく、純と私の姿をした『誰か』は仲良くお喋りしながら学校に着いた。 純には心底がっかりだよ・・・・・・ もういい。そもそも純に期待するなんてどうかしていた。 学校に着いたなら憂がいる。憂ならきっとこの『誰か』が偽物だって見抜いてくれるはず! ―――そんなふうに期待していた時期が、私にもありました。 私の姿をした『誰か』は見事に私を演じているのだ。 憂を始めとしたクラスの誰も不審がりはしないし誰にも私の姿は見えない。 このままじゃ私の体はこの偽物の『誰か』に取って代わられてしまうんじゃないかと不安になる。 最後の希望は・・・軽音部の先輩方・・・・・・! ―――――― 放課後になり、部室に向かう私の姿をした『誰か』。 そしてその後ろをふわふわとついていく私。 梓?「こんにちはー」 部室内には唯先輩、澪先輩、律先輩の三人がいた。 ムギ先輩は遅れてくるのかな? とりあえずふわふわ浮いている私に驚かないということは私の姿は見えていないようだ。 でも・・・先輩方なら今そこにいる私が本物じゃないと気づいてくれるはず! お願いします先輩方! カバンとギターを下ろした私の姿をした『誰か』に唯先輩が近づく。 唯 「あーずにゃ~ん♪」ギュウ 梓?「えへへ、唯センパーイ♪」ギュウウウ 唯律澪 「「「!」」」 出た!遂にボロが出ましたよ! 本物の私は唯先輩に抱きつかれて抱きつき返すなんてするわけありません! 気づいてください!先輩方! 唯 「ふおぉぉぉぉぉぉお!あずにゃんが!あずにゃんがぁぁぁぁぁあ!!」 澪 「」 律 「お、おいおい・・・どうしたんだよ梓」 梓?「別にどうもしませんよ?大好きな唯先輩に抱きつかれたので抱きつき返しているだけです///」 梓 『わ、私がそんなこと言うわけないじゃないですか!気づいてくださいよー!』バタバタ 唯 「あ、あずにゃん・・・今なんて言ったの・・・・・・?」 梓?「え・・・だ、大好きな唯先輩って、言いました・・・・・・///」 梓 『私はそんな事言わないーーーーーー!!』 唯 「う、うぅぅ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」ボロボロ 梓?「ゆ、唯先輩?どうしたんですか!?泣かないでください・・・」 唯 「ごべんねぇ・・・でも、嬉じぐっでぇぇぇぇぇぇ・・・」ボロボロ 梓?「唯先輩・・・・・・///」 梓 『・・・・・・・・・』 私の姿をした『誰か』は唯先輩が落ち着くまで抱きしめ続け、ハンカチで涙を拭いてあげていた。 ・・・・・・ホントならそれは私の役割なのに・・・・・・いや、私ならそもそも唯先輩に抱きつき返すことも 大好きですなんて言うこともしないわけで、そうなると唯先輩が泣き出すこともそれをなだめる なんてことも起こりえないのですが・・・・・・ 梓?「落ち着きましたか?唯先輩」 唯 「うん・・・えへへ、ありがとうあずにゃん///」 律 「・・・まあとりあえず座れよ、二人とも」 澪 「そ、そうだな。ちょっと話し合おう・・・」 二人のやり取りを黙って見ていた律先輩が声を掛ける。 澪先輩は私の姿をした『誰か』と唯先輩が抱き合ったあたりから硬直していましたが 帰ってこられたようです。 律 「えーっと。つまり、なんだ。お前らは付き合うってことか・・・?」 二人が席に着いたところで律先輩はそう切り出した。 唯 「えっ///えっ///付き合うとか、まだそんな、ねぇ・・・?」 唯先輩は同意を求めるように私の姿をした『誰か』に視線を送る。 梓?「わ、私は・・・唯先輩が良ければ・・・お付き合いしたいです・・・・・・///」 梓 『ちょ、ちょっと!そんな大事なことあなたが勝手に決めないでよ!』 と、叫んでみたところで私の声はここにいる誰にも届かない。 律 「だってよー唯ー。後輩にここまで言われてどうするんだー?」ニヤニヤ 澪 「そ、そうだぞ唯。ちゃんと返事してあげないと!///」 梓『律先輩澪先輩!そんな煽るようなこと言わないでください!わ、私の気持ちが・・・・・・』 唯 「う、うん・・・わかったよ・・・あずにゃん・・・わ、私と・・・・・・」 梓 『ダメーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!』 唯 「お付き合いしてください!け、結婚を前提に・・・!///」 梓?「は、はい・・・!よろしくお願いします・・・・・///」 律 「おいおい。いくらなんでも結婚を前提には気が早すぎるだろー」ニヤニヤ 澪 「そんなことないぞ!お付き合いする以上は将来のことも真剣に考えないと!えらいぞ、唯!」 ・・・・・・ナニコレ? 私と唯先輩は恋人同士になったっていうこと? 私の意思は無視して? いえ、私もこうなることを望んでいなかったかと言えば嘘になりますが・・・ こんな形で叶っても嬉しくない・・・ 唯先輩も唯先輩です! 私の事ホントに好きならその私が本物じゃないって気づいてくださいよ! 澪 「いや、しかし唯が梓のこと好きなのは知ってたし、 梓も多分唯のこと好きだろうと思ってはいたけどなあ・・・」 律 「だよなあ。梓が素直じゃないからくっつくのはまだまだ先かな、 なんて思ってたんだけどなー」 唯 「えへへ・・・あずにゃん。大好きだよ///」 梓?「嬉しいです・・・私も・・・大好きです///」 ガチャ 紬 「遅くなってごめんね、みんなー・・・えっ?」 律 「遅いぞームギー。もうちょっと早ければいいものが見れたのになー♪」ニヤニヤ 紬 「えっ?な、なにがあったのかしら・・・?」 澪 「ほら。唯、梓。自分達でムギに報告してあげろよ」 唯 「うん・・・えっとねムギちゃん・・・私とあずにゃんね・・・・・・」 梓?「お、お付き合いする事になりました・・・・・・///」 紬 「えっ!?そ、そうなの?素敵だわ、唯ちゃん梓ちゃん!おめでとう!」 ムギ先輩は嬉しそうに二人を祝福してくれているがどこか心ここにあらずといった感じだ。 その理由を私は知っている。 そしてそれは私にとって望んでいたことが遂に訪れたということでもある。 そう。ムギ先輩には私が見えているのだ。 部室に入ってきた瞬間、ふわふわと宙に浮いている私の方をチラリと見て、一瞬だが 驚いた顔をしていた。 ムギ先輩は純のようなエセとは違いホントに霊感の強い人なんだろうか・・・? しかし見えているだけでは心もとない。 私の声が聞こえていないと現状を報告することができないのだ。 ふわふわとムギ先輩に近寄り、耳元で話しかけてみた。 梓 『あの、ムギ先輩・・・私の声が聞こえていたらウインクしてもらってもいいですか?』 紬 「・・・・・・」パチリ やった!これでなんとかなる!・・・・・・かどうかはまだわからないか・・・私の姿が見えて いるからといってムギ先輩に元に戻る方法がわかるとも限らない。 しかし話を聞いてもらえる相手ができたということは充分に心強い。 梓 『すいませんが部活が終わった後、部室に残ってもらっていいでしょうか?』 紬 「・・・・・・」パチリ 二度目のウインク。OKということだろう。 こうなると今の私には部活が終わるのを待つことしかできない。 先輩方のお喋りに耳を傾けて待つことにした。 唯先輩と私の姿をした『誰か』の交際のお祝いと称したお茶会が始まった。 律 「しかし今日の梓はどうしたんだ?急に素直になったって感じだけど」 梓?「そ、そうですか?自分ではいつもと違うつもりはないんですけど・・・」 澪 「いや、そこは律の言うとおりだと思うぞ。まず唯に抱きつかれて抱きつき返すって ことがいつもの梓じゃ考えられないからな」 唯 「うん。それは私もびっくりしたよー・・・まあ嬉しかったけど」デヘヘ 梓?「うぅ・・・それは・・・き、昨日までの私がどうかしてたんです!これからは抱きつきたい時は 私から抱きつきますし、ちゃんと私からも好きっていいます!」 唯 「あ、あじゅにゃあーーん・・・・・・」グス 律 「はいはい梓、そのへんにしとけ。唯のやつまた泣いちゃうから」 澪 「二人とも・・・その・・・イ、イチャつくなとは言わないけど部活中はほどほどにな?」 紬 「はあ・・・私も見たかったなあ・・・二人の告白シーン・・・もうちょっと待っててくれたらよかったのに・・・」 いやいやムギ先輩違うんですよ? その告白はホントの私じゃないですから。 まあ後で説明しますけど。 そんなわけで今日の部活は終始唯先輩と私の姿をした『誰か』の話で持ち切りで 澪先輩ですら練習を始めようと言い出さなかった。 ―――――― 下校時刻が迫り今日の部活はそろそろ終了のようだ。 部室を出て行くとき唯先輩と私の姿をした『誰か』は手を繋いでいた。なんだか納得いかない。 この二人の後をつけたい気持ちもあったが私には他にやらなければいけない事がある。 ムギ先輩はほかの皆さんに上手いこと言って部室に残ってくれていた。 梓 『すいません、ムギ先輩残っていただいて・・・』 紬 「ううん?いいのよ、梓ちゃん。それよりおめでとう♪唯ちゃんと」 梓 『い、いえ。あれは私じゃないですから・・・』 ムギ先輩に今朝からの出来事を全て話した。 朝起きたら幽体離脱のような状態になっていたこと。 私の体には他の『誰か』が入っていること。 その『誰か』のする私の演技は完璧で、クラスメイト達は誰も気づかなかったこと。 唯先輩に対する態度だけがいつもの私とは違っていたが他の先輩方は気づくどころか 唯先輩と『誰か』がお付き合いする流れになってしまったこと。 そして今の私を見ることができたのはムギ先輩だけだということ。 梓 『ムギ先輩って霊感とか強い方なんですか?』 紬 「うーん、どうなのかしら?わりと他の人に見えないものが見えたりするけど あまり気にしないようにしてるから・・・」 これは相当なものじゃないだろうか。見えてしまうものを気にしないなんてかなり 上級者のような気がする。 梓 『で、どうなんでしょうか・・・どうやったら元に戻れるかとか・・・私の体に入ってるのが 誰なのかとか・・・わかりますか?』 紬 「うん・・・なんとなくわかるけど・・・・・・」 梓 『えっ!わかるんですか!?』 なんて話が早い。良かった。軽音部にムギ先輩がいてホントに良かった! 紬 「私のわかる範囲で話すけど・・・今、梓ちゃんの体に入っているのは間違いなく梓ちゃんよ」 梓 『・・・・・・へ?』 間抜けな声を出してしまう。 私の体に入っている『誰か』は・・・私? となると今ここにいる私は何者だということになる。 私のほうが・・・偽物・・・? 紬 「ううん。今ここにいる梓ちゃんも偽物なんかじゃないわ。上手く言えないけど・・・ あなたは梓ちゃんの魂の『一部』なんだと思う」 梓 『じゃ、じゃあ今日唯先輩と恋人同士になった、あちらの中野梓の方が本体ということですか・・・?』 紬 「うーん・・・どちらが本体かと言われれば肉体を持っちゃったあちらの梓ちゃんが本体と言えるかも しれないけど・・・・・・あ、梓ちゃん、神様になりたがった緑色の宇宙人さんのお話知ってる? 神様になるために悪の心を切り離したってお話。あれに近いと思ってくれればいいかな?」 梓 『私は悪の心なんですか・・・・・・』ズーン 紬 「あ、ご、ごめんなさい!言葉のあやよ。つまり目的達成のために不要な部分を切り離したってことね。 宇宙人さんは神様になるために、そして梓ちゃんは大切な人の気持ちに応えるため・・・」 梓 『うっ・・・・・・』 紬 「もうわかったわよね梓ちゃん?ここにいる今のあなたがどういう存在なのか」 梓 『私は・・・唯先輩に対して素直になれない、意地っ張りな中野梓・・・』 紬 「はい。良くできました♪」 梓 『そうだったんですか・・・じゃあ私はもう消えたほうがいいですよね・・・中野梓は目的を果たしたんだし・・・』 でも消えるといってもどうすればいいんだろう・・・ ムギ先輩が成仏させてくれるのかな? 紬 「なに言ってるの梓ちゃん!緑色の宇宙人さんのその後を知らないの?」 梓 『・・・・・・はい?』 紬 「二人に別れちゃった宇宙人さんは最後に一人に戻って最強になるのよ!」 その話は私も知っている。確か別れた悪の方の心が次第に改心していって元の一人に戻るのだ。 梓 『で、でも私が元に戻ったらせっかく両想いになった二人がまた私のせいで・・・』 紬 「梓ちゃんも改心しちゃえばいいのよ!」 梓 『・・・改心って・・・?』 紬 「唯ちゃんのこと、好きでしょう?」 梓 『!!』 そんな事は当然だ。私だって中野梓なんです。全ての中野梓は無条件に唯先輩のことが大好きなんです。 ・・・でも。 言えない。 そう、私は素直になれない意地っ張りのバカな中野梓。 好きだなんて、言えない。 紬 「このままだとこっちの梓ちゃんはずーっと唯ちゃんと目を合わすことも、お話しすることも 抱きしめてもらうこともできないのよ?」 ・・・嫌だ、そんなの。絶対に嫌だ。 梓 『わ、私は・・・』 紬 「うん、頑張って!」 梓 『私は・・・唯先輩が・・・・・・』 勇気を振り絞れ! 梓 『私は、唯先輩のことが・・・大好きですっ!!!』 唯 「ふぇっ!?あ、ありがとう、あずにゃん///私も大好きだよ!」 梓 「・・・へ?」 ここは・・・学校の帰り道にある公園・・・?ああ、そうか・・・唯先輩と恋人同士になって・・・ 律先輩と澪先輩とお別れしたあと、少し二人で公園でお話していこうという事になったんだった。 どうやら元に戻れたみたい・・・二つの記憶があるからちょっと混乱してるけど・・・ あ、ムギ先輩今部室で一人きりになっちゃってるんじゃ・・・後でお詫びとお礼の電話しなくちゃ。 唯 「嬉しいけど・・・急におっきい声だすからびっくりしたよー」 梓 「す、すすすいません・・・///」 ベンチに座った私は唯先輩にもたれかかるようにぴったりと寄り添っていた。 そう、さっきまでの私は唯先輩に対する気持ちを隠さない、素直な中野梓。 ベンチで唯先輩の隣りに座ればそりゃあぴったりとひっつくでしょう。 だが今の私は。 梓 「ち、近すぎですよ、唯先輩・・・///」グイグイ 唯先輩の体を押して、少し隙間を空けてしまう。 唯 「えぇーあずにゃんの方からひっついてきたクセにー」ブーブー うぅ・・・すいません・・・でも今の私にはこの密着した状態は無理なんです恥ずかしいです。 唯 「なんだか今日のあずにゃんは素直で積極的だったけど急に元に戻っちゃったみたいだねぇ」 梓 「!・・・・・・ごめんなさい・・・やっぱり素直な子のほうがいいですよね・・・」 ムギ先輩はああ言ったがやっぱり元に戻るべきではなかったのでは・・・ 少なくとも素直な中野梓の方は唯先輩に愛し愛され幸せになれたんじゃないだろうか。 唯 「んーん?素直で可愛いあずにゃんも、意地っ張りで拗ねちゃうあずにゃんも、 練習しますよーって怒るあずにゃんも全部、ぜーんぶ大好きだよ!!」 梓 「・・・・・・・・・」 唯 「・・・あずにゃん?」 梓 「・・・・・・グス・・・ヒック・・・う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」ボロボロ 唯 「あ、あずにゃん、どうしたの?泣かないで・・・」オロオロ 梓 「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」ボロボロボロ 唯先輩は私が泣き止むまでずっと抱きしめてくれた。 よしよしと言って頭を撫でてくれた。 ・・・一人に戻った緑色の宇宙人はその後どうなったんだっけ? 幸せになれたんだっけ? あんまり覚えてないけど。 私には私の全てを愛してくれる人がいる。 私自身が不要だと思って切り捨てた部分でさえ。 幸せになれないわけがない。 いい話だった -- (鯖猫) 2013-04-23 23 56 48 まさかのDBネタ…まあ、よかったよ -- (名無しさん) 2013-04-26 12 28 27 ピッ●コロさんwww -- (ダメですぅ~) 2013-06-09 03 53 30 戻れてよかったね -- (名無しさん) 2014-04-26 13 36 50 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/debutvselder/pages/148.html
『先に駆けること──────sideA』 『先に駆ける者──────sideB』 無題14 「新参陣営から見たBチーム各ターンの見せ場SS」【濡れ場濡れ場の第1ターン】 【ドラゴンダビデな第2ターン】 【死なせません!!私が死んでも守ります!!な第3ターン】 【激動波乱な第4ターン】 『先に駆けること──────sideA』 「やらせねぇ…………ぞ」 地面に倒れ伏した仲間を背に、道之せんとうは両手を広げて上級生に立ち塞がった。 既に勝敗は決している。皆、激闘の末に力を使い果たし、戦える者はもう居ない。 道之自身でさえ同じだった。それでもふらふらと立ち上がった。 体力など、一欠片も残っていない。精神力など、一滴も残っていない。それでも何故 立ち上がれるのか。自分にさえ分からなかった。精一杯の虚勢を張る。 「へっ…………なんだか知らねぇが、立っちまうんだよ……」 その答えは、意外なところから現れる。すなわち、彼ら1年生の敵…………3年生。 「…………それが、希望崎学園魂だ」 「希望崎学園…………魂……?」 厳かで、しかし力強い言葉が轟く。 「ただ今をもって我ら古参、新参1年生の入学を正式に認める!!」 「…………押忍、ごっつぁんです、先輩」 一瞬呆けたような表情を浮かべたが、やがて不敵な笑みに顔を歪ませ…………。 立ったまま、気絶した。 「フッ…………思ったより骨のある奴だ。………………さぁ、1年生ども全員、第二 保健室に運ぶぞ。”不可思議”蓮ならまだ間に合う」 「応!」 対する3年生側も無論、無事ではない。ハリセンで叩き飛ばされた者。とろっとろに とろけたブリ大根を食わされた者。痛い目を見て病院で栄養食を食べるハメになった者。 酷い者になると、「おはよう」とよく通る声で挨拶された者までいる。被害は甚大と 言えたが、上級生の貫禄か疲労を微塵も見せずにそれぞれ負傷者を担ぎ上げ運んでゆく。 残された古参が一人、ニヤリと笑った。 「今年の新参はなかなか、活きが良い…………」 骨肉の戦いを終え、運ばれてゆく1年生を見守るその瞳は既に、後輩を見る目だった。 「江田島校長、ご報告申し上げます! 覇竜魔牙曇は3年生側の勝利で決着です!」 ドタドタ、と足音を立てて校長室に飛び込んできた一人の教師。その報告を江田島は 年代物の湯呑みに淹れた熱い茶を飲みながら聞くと、意味ありげに頷いた。 「予想通りだな…………これで漸く奴等を迎え撃てるというもの」 「奴等…………?」 事態を飲み込めない教師は首を捻る。ただ、とてつもなく嫌な予感だけはひしひしと 伝わる。 「フッフフ…………東に希望崎学園あれば、西に羅漢学園あり」 「ま、まさか…………!?」 「今年の夏は、熱くなりそうじゃわい」 校長室の窓から見上げた空には既に雲一つなく、ぎらぎらとした太陽の季節の到来を 予感させていた。 <了> TIPS ※”不可思議”蓮…………通称”ワンダー”蓮。第二保健室の主である女医。白蓮刺繍 のチャイナドレスに白衣を羽織った抜群のプロポーションを 誇る美女。魔人能力「死亡確認!」は強力な死者蘇生術。 魔人名「一 不可思議(にのまえ・ふかしぎ)」 ※羅漢学園…………………西日本に位置する、言わばもう一つの希望崎学園。 『先に駆ける者──────sideB』 「…………覇竜魔牙曇、1年生側の勝利で決着です」 一人の男の最終報告を、校舎内の一室にて聞く者たち。その数、十。何れもその容貌 は影に紛れ、杳として知れない。 「ご苦労だった、同志K」 同志Kと呼ばれる男は身分を秘して新参陣営に潜入し、その内情を探る働きをしていた。 戦いに不慣れな新参の士気をそれと無く高めたり、実戦が初めてな者へ魔人同士の戦いの なんたるかを最低限示したりすることで彼らの信用を得、陣営の情報を微に入り細に入り 把握していた。1年生の強みも弱みも、開戦前から丸裸であったと言えよう。 そして、この部屋に集まる者たち。彼らは古参の中でも指折りの実力者であり、覇竜 魔牙曇の名目で新参の実力を測る計画を企てた希望崎学園の影の支配者────── Government of Kibousaki──────GKと自らを呼称する者たちだった。 「さて…………では、希望崎学園の真の恐ろしさ。新参共に教えてやらねばなるまい」 重々しい言葉で、GKの領袖である男が断を下す。 「奴等はようやく登りはじめたばかりだからな。このはてしなく遠い希望崎学園坂をよ……」 「それ、打ち切りフラグですからね。我々の出番ないですよ、ボス」 「えっ」 「えっ」 「…………同志L。同志ε」 「はっ」 名を呼ばれた二人は同志Kの肩を両側からがっし、と捕まえるとそのまま何処かへ 連れ去る。誰もが恐れる朗読室送りは同志Kには効果が薄い。恐らく別の懲罰室であろう。 希望崎学園を支配するGK。その恐ろしさを新参が知るのには、今暫くの時を待つこと になるであろう。 <了> TIPS ※ボス…………GKの最高権力者である魔人。しかしGKはその時々で構成員の入れ替わり があり、一定ではない。正体は不明。 ※同志L…………頭文字Lの名を持つ魔人。正体は不明。 ※同志ε…………頭文字εの名を持つ魔人。正体は不明。挨拶が好きという噂がある。 ※同志K…………頭文字Kの名を持つ魔人。正体は不明。朗読が好きという事実がある。 無題14 諸君 私はハッピーエンドが好きだ 諸君 私はハッピーエンドが好きだ 諸君 私はハッピーエンドが大好きだ 友情が好きだ 共闘が好きだ 完勝が好きだ 仲直りが好きだ お約束が好きだ 大団円が好きだ 無血開城が好きだ 甘い展開が好きだ デウス・エクス・マキナが好きだ 教室で 廊下で 校庭で 屋上で 体育館で 保健室で 職員室で 秘術室で 媚術室で 死兆覚室で この学び舎で起こりうる ありとあらゆるハッピーエンドが大好きだ 何が起こっても怯まない主人公が 必殺技と共に敵達を吹き飛ばすのが好きだ 指揮官を失った雑魚敵が 戦意喪失してちりぢりになった時など心がおどる 命を張って味方を助ける 心熱き漢が好きだ どう考えても絶体絶命の状態で 巨大な爆弾の爆発と共に消えておきながら なんだかんだで平然と復活したときなど胸がすくような気持ちだった 昨日の敵が今日の友となり 敵の戦列を蹂躙するのが好きだ かつて味方を苦しめた必殺技の数々が 新たな敵を 縦横無尽に蹴散らしている様など感動すら覚える ライバルが主人公のピンチに駆けつける様などはもうたまらない 口では悪態をつきながら まるで10年来の親友のように 主人公とライバルが絶妙なコンビネーションを見せるのも最高だ そうしたご都合展開を繰り広げ 冷静に考えて想定しうるあらゆる問題を闇に葬り去り 誰一人欠けることなく勝利の二文字を掲げて物語が決着した時など絶頂すら覚える 主人公が奈落の底に投げ出されるバッドエンドが嫌いだ 必死に守るはずだった仲間が蹂躙され 主人公が殺されるバッドエンドは とてもとても悲しいものだ 主人公に痛みを強制するトゥルーエンドが嫌いだ 何かを失い 悲しみを胸に明日へと進むトゥルーエンドは屈辱の極みだ 諸君 私はハッピーエンドを 幻想の様なハッピーエンドを望んでいる 諸君 私と共に先駆けた新参達 君達は一体 何を望んでいる? 更なるハッピーエンドを望むか? 情け容赦のない 糞の様なハッピーエンドを望むか? ご都合主義の限りを尽くし 上等な料理に蜂蜜をぶちまけるが如き サッカリンの様な結末を望むか? 「ビッチ!! 触手!! 妹!!」 (´・ω・`) ……よろしい ならば応援だ 我々は満身の力をこめて今まさに書き込むボタンを押さんとする人差し指だ だがこの蒸し暑い梅雨空の下で一ヶ月もの間 堪え続けてきた我々に ただの応援では もはや足りない!! 大応援を!! 一心不乱の大応援を!! 我らはわずかに31名 二戦制の規約に満たぬ新参にすぎない だが諸君は 一騎当千の新強者だと私は信仰している ならば我らは 諸君と私で総兵力2チームと1人の軍集団となる 我々を忘却の彼方へと追いやり 眠りこけている連中を叩き起こそう 髪の毛をつかんで引きずり降ろし 眼を開けさせ思い出させよう 連中に魁の味を思い出させてやる 連中に我々のSS朗読の音を思い出させてやる 天と地のはざまには 奴らの経験では思いもよらない事があることを思い知らせてやる 31人の魔人の応援団で 本戦終了後も戦勝SSを投稿し尽くしてやる 「最後の2チーム+1名 陣営ラジオより全新参メンバーへ」 第二次魁!!ダンゲロス応援作戦 状況を開始せよ 征くぞ 諸君 「新参陣営から見たBチーム各ターンの見せ場SS」 【濡れ場濡れ場の第1ターン】 ―――――先に動いたのは新参陣営だった。 戦闘に自信のある新参魔人達が開幕直後から敵陣を目指し一直線に駆けだしたのだ。 ある者は自分が目立つ為にある者はまだ見ぬ敵の能力を記録するためにある者は自分の拳を示すために、それぞれが確固たる意志をもって歩を進めた。 そんなメンツの中でもひときわ強い覚悟を秘めて単身敵陣に向かう男がいた。 そう、その男こそ最強の一般人こと緑風佐座(みどりかぜ さざ)であった。 緑風の覚悟とは、すなわち自らの死に対する覚悟だ。 開戦前に行われたシミュレートの中で、緑風が単身突撃しなければ新参陣営に勝ち筋のないことが判明していた。 しかし単身突撃した際の彼の生存率はせいぜい1割程度であり、緑風の用法をめぐって作戦立案時の陣営内は荒れに荒れていた。 「…私だって『死ね』って言ってるんじゃないのよ? ただアンタが行かなきゃ勝てないってんなら…その…仕方ないっていうか…」 「『死ね』はやめましょうよ!!! 緑風さんが死んじゃったらすごく悲しいですよ!!? きっとみんなすごく後悔しちゃいますよ!!?」 「必要犠牲ならば止むを得ずだな。無論僕も陣営の為に死ぬ覚悟を有している。」 「私は戦略とか戦術とか難しいことはわかんないけど、佐座君には死んで欲しくないかなぁ…」 そんな終わりの無い舌戦を纏め上げたのは、他ならぬ緑風だった。 彼は自身の隠された能力である「認識を周りに強制する能力」を使い、作戦会議をしていた魔人達に「緑風はきっと死なない。緑風ならきっとなんとかしてくれる。」という希望的認識を植え付けたのである。 緑風はよく戦術を理解しており、自分の立ち位置の重要性を知っていたのだ。 故に自らが犠牲となる最善手を能力によって選びとり、これにより緑風特攻案は誰にも止められることなく当日決行されるに至ったのである。 なお、この緑風の決断の背景には彼が元から持っていた「ヒーロー願望」とでも呼ぶべき理念の影響も少なからずあったことを付け加えておく。 以上のような思惑の元、新参陣営は開幕と同時に攻めをかけたわけだが、この直後に「確固たる意志」も「死に対する覚悟」も邪悪なる古参陣営の前では何の意味も無かったと思い知らされることとなるのである。 ―――――その陰惨な返し手は新参陣営内の事前シミュレートで予想済みのものであったが、予想するのと実際に体験するのは別物であり、新参達が直に体験したそれは想像を遥かに凌駕した邪悪なものであった。 返し手の核を担った古参魔人は「身操屋(みくりや)」の異名を持つ操身術士の一族、御厨一族の女性「御厨括琉(みくりや・くくる)」と月の力で精神力の低い対象を即死させる「月宮クズレ」両名であった。 特筆すべきは御厨の能力の凄惨さであろう。 彼女の能力「弄ばれた者の末路」は相手を操り奇行を行わせ、相手を社会的に殺す(=精神ダメージを与える)というものだ。 操身術士として決して能力の高くない彼女が他人を操れる数秒間を最大限に活かそうと工夫した結果生まれた能力がこれである。 しかし衆目に晒されている状況下では恐ろしいこの能力だが「人払いが行われているダンゲロス本戦中においては効力が薄れるのでは?」と新参魔人達は楽観視していた。 そしてその楽観視が見事に仇となったのである。 結果から言えば彼女の所持していた奇行アイディアメモの底は新参が考えていたよりずっとずっと深く、衆目がなくとも見事に血気盛んな新参アタッカー4名の精神を根こそぎ削ってのけたのである。 「確固たる意志」も「悲痛な覚悟」も彼女の手のひらの上で弄ばれて投げ捨てられた。 埴井葦菜は操られている数秒の間に自慰行為をさせられ、それを手下である無数のアシナガ蜂達に目撃された。 忠誠度の高い蜂達ははじめ葦菜のことを気遣い葦菜の痴態を見なかったことにして、黙していたのだがその不自然さを誰ならぬ葦菜が感じ取り、きつく詰問したのである。 数秒間意識が飛んだ後、何故か自分に余所余所しい態度をとるようになった手下達に対して不信感を抱いた葦菜を誰が責められよう。 「アンタ達、一体どういうつもりなの!? 私に隠し事なんて許されると思ってるの!?」 「「………」」 「…そう、何があったか教える気はないってわけね。 …わかったわ、上等じゃない! 不忠な手下なんていらないわ! アンタ達なんて大っきらい!!」 「「……あの…とても言い辛いんですが…」」 「な、何よ。 今さら謝ったって遅いんだからね…?」 「「……『ひゃーん ひゃーん』…です。」」 「ひゃーん?」 こうして蜂達から事実を聞きだした葦菜の精神はゼロになった。 行方橋ダビデは自らの残像とホモセックスをさせられた。 彼に意識が戻ったとき、残像の質量を持ったイチモツが彼の内にずっぽりと収められていたのである。 いかに同性愛者のダビデといえど自身とウリ二つな残像との性交はこれがはじめてで、動揺せざるを得なかった。 なお、普段の同性との性生活において彼が男役であったことも動揺に拍車をかけた一因である。 こうしてダビデの精神はゼロになった。 夢追中は愛用のペンを遥か遠方に投げさせられ、トレードマークのスパッツを下着もろとも細切れにさせられた。 御厨は「愛用のペンを紛失したことによって発生する喪失感と衣服を失くしたことによって発生する羞恥心で彼女の精神を削ろう」という意図でこの行動をさせたのだが、その狙いはイマイチであった。 御厨ひとつめの誤算は鷲の存在である。 夢追が愛用のペンを放り投げたのを見て、上空で待機していた彼女の友達である大鷲がそれを拾いに行ったのである。これによりペンの消失は防がれた。 御厨ふたつめの誤算は彼女の羞恥心に関してだ。 もちろん一端の女の子である夢迫には一端の羞恥心があるのだが、彼女にはそれを遥かに上回る「特殊能力に対する探求心」があった。 能力が解けた夢迫は一瞬のうちに自分の変化に気づき、それが能力によるものであることを理解した瞬間、はあぁぁぁぁ~~~ん!と嬌声に似た歓声を上げた。 その後、うっすらと湿り気を帯びた丸出しの下半身を隠そうともせず鷲から受け取った愛用のペンで特性のメモ帳にガリガリと何かを書き込みはじめたのである。 「はぁ…はぁ… これが御厨先輩の能力『弄ばれた者の末路』 すごい…すごすぎます… 想像してたよりもずっとずっと立派な射程と精度です 何の前兆もなく気付いたら意識がトんでました… はぁ…はぁ…… ……もっと……! 古参のみなさん…聞こえていますか…? もっとです!! もっと…もっと…もっと私にぃぃぃぃ!!! 特殊能力ぶっかけてぇーーーーーーーっ!!!」 こうして御厨の意図とは別に夢迫の精神はゼロになった。 そして緑風は――――― 意識を取り戻した彼は右手の親指の痛みと口の中に広がるほのかな鉄の味を感じた。 冷静な彼は今置かれている状況をすぐさま把握した。 自分が御厨の能力によって操作されたこと、そしてそれによってどうやら親指を少し噛み千切ってしまったということを。 そして彼は安堵した。 「事前に予想していた通り、御厨先輩の能力は衆目がなければ役に立つ代物ではなかったんだ。僕の精神を削る有効な奇行を思いつかず苦し紛れに指の先を噛みちぎったに違いない。どうせ噛みちぎるなら舌を切った方が強いだろうに先輩はマヌケだな」などと楽観的な考察をしたのだ。 だが楽観的とは言ったが、実際問題この時点で彼の精神は健全そのものであり、それ故に接近してきた古参魔人・月宮を鋭敏に感知することもできた。 事前のシミュレートではここで精神の枯れた緑風が月宮に討たれる算段だったのだが、今の精神状態の彼が月宮の精神攻撃にかかるはずもない。 緑風は自身の生存と陣営の優勢を確信し心の内でガッツポーズをした。 が、接近と同時に月宮が放った一言により事態は一変する。 「何そのTシャツ、ウケるwww」 一般人を装うために彼は普段から「一般人」と大きくプリントされた白地のお手製Tシャツを愛用していた。 「一般人」Tシャツは一般人を装うことを何よりも大切にする彼の性質を具現化したような代物だ。 ダンゲロス本戦当日の今日においてもその習慣に漏れはなく、…いや、むしろいつもより気合を入れておろしたての「一般人」Tシャツを着て陣営に参じた緑風であった。 その信念の象徴とも言えるTシャツをバカにされて緑風はムッとして言い返した。 「『一般人』Tシャツはカッコいいです。 むしろ先輩の格好の方が失笑ものですよ?」 「『一般人』Tシャツぅ?w 『魔人』Tシャツの間違いじゃないの?ww」 何を…と、自分のTシャツに視線を落とした緑風はこの時になってようやく気付いたのである。 自らのTシャツに刻まれた「一般人」の「一般」に血で派手なバッテンが描かれ、その横にやはり血で「魔」と大きく書かれていることに。 緑風にとってこれは耐えがたい羞辱であった。 例えるなら忍者に「忍者」と大きく金の刺繍を施した紫地のTシャツを着せるようなものである。 いや、コナン君に「僕は工藤進一です」と刺繍したTシャツを着せるという例えの方がこの時の緑風の心情に近いかもしれない。 兎にも角にも、これをもって緑風の精神はゼロになったのである。 「いやっ! これはちがくて! 俺マジ一般人だし!」 緑風のクールな仮面は既に剥がれおちており、動揺が見てとれた。 そんな隙だらけな彼を熟練の使い手である月宮が見逃すはずもなく、 「ファンタズムーン・ディバイン・キャッチ!」 というどこかで聞いたような必殺技名と共に緑風は即死したのであった。 ■ 緑風の死亡により新参陣営の連携に乱れが生じた。 それは緑風の能力により押しつけていた認識が消えたことに起因する 「なぜ誰も緑風の特攻を止めなかったのか?」 後悔と悲しみが新参陣営を襲う。 特に御厨の能力をまともに受けた上で緑風が死ぬところを目撃してしまった行方橋・埴井の両名は発狂寸前の精神状態に陥ってしまった。 →緑風を失った新参陣営に勝機はあるのか!? 次回! ドラゴンダビデな第2ターン! 【ドラゴンダビデな第2ターン】 開戦から約1時間後、沈黙を守っていた新参陣営の阿野次(あのじ)のもじがついに動いた。 「♪一つ積んでは君のため~ HA! 」 能力によりのもじの歌がダンゲロスに参加しているすべての古参魔人の耳元で響き渡る。 聞き慣れた者にとっては戦意を鼓舞する軍歌のように聞こえるこの歌だが、聞きなれない者にとっては単なる騒音に過ぎない。 これにより古参陣営の精神力とSAN値はガリガリと音を立てて削られていった。 ■ のもじの歌を反撃ののろしに攻勢にでる新参陣営。 ダンゲロス伝統のB廊下とD廊下の攻防がついに始まった。 D廊下を挟んで睨み合うは新参陣営の二枚盾がひとり「鉄壁絶壁幽霊少女(フラットロンリーガール)・梨咲(ありのみざき)みれん」と古参陣営の変態九大天王がひとり「私の彼は子宮住まい(ボーイミーツガール)・名戯(なざれ)まりあ」である。 D廊下は両陣営共に手薄な配備で、みれんとまりあ(&こう)による一騎打ちの様相を呈していた。 梨咲「ふぇーん、設定が高次元過ぎて怖いよー!! お願いだからこっちこないでー!!」 まりあ「こう君こう君! な、なんかあっちに幽霊さんがいるんだけど!?」 こう『うお…まじじゃん、こえーな』 …訂正、お互いがお互いの存在に怖気づいて震えていた。 結局名戯まりあがB廊下の攻防に備え引くこととなり、ここでの戦闘は行われなかった。 ■ 一方互いの主力が集結したB廊下周辺には一触即発の雰囲気が流れていた。 古参陣営は先ほどまでD廊下を守護していたまりあが最前線で睨みを利かせ、その横には開幕直後に緑風を葬った精神即死魔人の月宮が控えている。 さらにまりあのすぐ後ろには凶悪な攻撃性能を持った魔人たちが控えている陣形だ。 対する新参陣営も埴井や夢迫といった攻撃的能力者が控えているものの御厨による精神的ダメージが響いておりまともに殴り合うには分の悪い状況だった。 さらには能力休みになっている月宮が再び動き出すのも時間の問題で、それも旗色の悪くしている原因のひとつであった。 そんな押され気味の新参陣営の中で1番深刻なダメージを負いながらも自らの意思で最前線から動こうとしない男がいた。 それこそ新参陣営攻め手の要、行方橋ダビデであった。 ダビデの能力は質量をもった残像を生み出す能力である。 この残像はダビデ本人に準ずる攻撃力と耐久力を有し、手数を増やす能力として新参陣営内で重宝されていた。 そのダビデが今、鬼気迫る形相で残像と共にB廊下に陣取り古参の進軍を牽制している。 ダビデの負った傷は生易しいものではない。 残像を生み出すだけでもかなりの体力と精神力を要するというのに、そのあとに古参魔人・御厨の能力によって心身ともにボロボロにされ、泣き面に蜂とばかりに親友・緑風の死に様まで見てしまった。 本人は 「うおおおおお!!! こんなことで残像を消してたまるかァーーー!!」 と気力を振り絞って能力を維持しているが、傍でその様子を見ている新参魔人達の中には彼の見舞われた数々の不幸に同情の念から涙を浮かべているものさえいる。 十年ほど前にトランプが体に刺さり集中力が切れたために能力を維持できなくなった分身能力者がいたが、彼を比較対象として挙げるなら何故ダビデが能力を維持できているのか不思議なくらいなのだ。 そんなダビデの後ろで彼を見ていた新参陣営リーダーの稲荷山 和理(いなりやま にぎり)は後にこう語る。 「あの時のダビデ君の様子は今でも鮮明に覚えています。 …ダビデ君、緑風君と仲が良かったんですよ…。 雰囲気が似てたし、たぶんお互いどこか惹かれるところがあったんじゃないですかね。 そんな緑風君が死んじゃって、とても悲しかったんでしょう…。 あんな風に声を荒げて必死になっているダビデ君を見たのはあれが最初で最後でした…。 あの時のダビデ君からは頼もしさよりも怖さを感じてしまいましたね…。 手負いの虎というか…こう…逆鱗に触れられた龍のような荒々しさがありました。」 →「ドラゴン」という不吉な属性を得て生き残れるのか行方橋ダビデ! 次回! 死なせません!!私が死んでも守ります!!な第3ターン! 【死なせません!!私が死んでも守ります!!な第3ターン】 行方橋ダビデの消耗は誰の目にも明らかだった。 B廊下に陣取ってから早一時間、目前に控える古参主力・名戯まりあと月宮クズレのプレッシャーを一身に受け続けているのだから無理もない。 ただ、彼が一瞬でもその場を離れれば瞬く間に敵がなだれ込んで来ることは想像に難くなく、安易に「引け」と言える状況ではなかった。 そうしたつばぜり合いのような緊張状態が長い時間続いていたのだが、ついに契機が訪れる。 今まで頑なに沈黙を守ってきた古参陣営リーダー・アキカンが能力を発動したのである。 アキカンの能力の禍々しさはその場にいた全ての新参魔人が知っていた。 味方の古参魔人を媒介として発現するアキカンの呪いは逆らう者全てに凄惨な死を与える。 この能力が発動された時、新参陣営には逃げる以外に有効な選択肢が無いのだ。 「おい、さがれ馬鹿 病院で栄養食を食べる事になる」 業を煮やした新参陣営の一人がダビデに撤退を促すが、ダビデは一切反応せずに残像の維持に集中を傾けている。 そんなダビデの努力をあざ笑うかのようにアキカンの能力を受けた古参魔人・重川がB廊下に飛び込み、ダビデの残像を拳で殴りつけた。 パンッと小気味のいい音を立ててはじけ飛ぶ残像。 残像の維持以外何も考えないことで発狂しそうな精神状態を抑え込んでいたダビデはこれにより心身虚脱に陥ってしまった 分身も消え、心身共に消耗しきり、もはや彼を守るものは何も無くなった。 「これが最前線に立つ者の定め」とばかりに間もなく訪れるであろう死を受け入れた様子でダビデは力なく座り込んでいる。 目前には分身を殴り消した古参魔人の重川、後詰めには名戯まりあや月宮クズレをはじめとする古参陣営の手練れが5名も控えている。 これをどうこうするのは例え万全な状態なダビデをもってしても不可能で、ましてや消耗しきった彼ではなおさらである。 「(最早ここまで…佐座(さざ)…速右(しゆう)…死ぬ前にもう一度…)」 「『死ぬ』はやめようよ!!!」 死を覚悟したダビデと重川の間に割って入るように一人の半透明な少女が現れた。 古参陣営の方を向き華奢な手足を目いっぱい広げて仁王立ちの構えでキッと重川を睨みつけている少女の名は梨咲(ありのみざき)みれん、新参陣営の二枚盾を冠する防御能力者である。 遠い昔に自殺した少女の幽霊である彼女は自殺後になって自らの愚かな行為を悔い、同じ過ちを犯そうとしている人間を見つけるとついつい諭したくなってしまうのだ。 また彼女は幽霊特有のスキルをいくつか習得しておりダビデの心を読んだのもそのスキルの一つである。 「私が来たからもう大丈夫だよ!! ちょっと下がって見ててね!!」 そう言ったみれんに対して「余計なことを」とダビデは心中で毒づいた。 精神が枯れ切っているダビデはもはや生に対する意欲が薄く、むしろ死にたいとすら思っていたのだ。 自身の自身たる証である能力に犯され、親友を目の前で殺され、最後の精神的支えであった発動中の能力が消えた今、彼を支えるものは何も無かった。 元々陣営に対する忠義心は薄く、新参陣営の中で行われていた友情ごっこも弱り切った彼の生きる動機となるには足りなかった。 もうどうでもいいんだ、もう――――― 彼がその次の言葉を連想した瞬間、みれんは大声を張り上げた。 「『死ぬ』はっ!! 『死ぬ』はやめようよっ!!!」 それは何の代わり映えもしないいつも通りの台詞だったが、彼女の声は震えていた。 「私がファッション自殺しちゃったのは知ってます…よね…? 私は本当に下らない理由で死んじゃったんです。 はじめて好きになった男の子に勇気を出して告白したら手酷い振られ方をしちゃって…。 そのショックで…つい…。 …そんなのってありきたりで馬鹿馬鹿しいって思いますよね? 私もそう思います。 でも今の私はそう思えても当時の私はそうは思えなかったんです。 その時の私の頭の中はその男の子のことしかなくて、それがダメになったら全部がダメになったような気がしたんです… だから今がダメだと思っても実は全然ダメじゃないっていうか…その… うまく言えないんですけどとにかく『死ぬ』はダメなんですっ!」 みれんは拙い言葉を一生懸命紡ぎだし、ダビデを何とか説得しようと試みた。 しかし彼女の必死の説得が彼の心を打つことはなく、むしろ薄っぺらな内容の説得は彼の心をより一層冷やしてしまったのだ。 だが一周回ってそれは吉とでた。 死にたい死にたいと思っていたダビデの心はもう思考することすら面倒だという領域に突入したのだ。 その結果ダビデは煩い音から遠ざかりたいという原始的な欲求に素直に従うようになり、大声を放つみれんを嫌いズルズルと自陣営の奥へと下がっていったのである。 ダビデの心を読んでいたみれんは彼の精神が今なお世紀末な状態にあることを知っていた。 しかしそれでも、先程まで目にいっぱいの涙を貯めていた彼女の顔には安らかな笑みが浮かんでいる。 自分の想いが全く伝わっていなくても、たとえそれが一時しのぎの生だとしても、とにかく死なせなければ先に繋がることを彼女は知っていたのだ。 自分で捨てたもう無い先に未練を抱く、そんな辛いのは私だけで十分です。 ダビデはいずれ元気になって戻ってくる。 その未来に繋ぐため、まずは今この場を死守しなければいけない。 覚悟を決めたみれんは改めて重川と視線を合わせる。 みれんがダビデを説得している間、重川とて遊んでいたわけではない。 重川は精神を集中した状態で重川流格闘法の構えをとって幽霊の様子を静観していたのだ。 それは幽霊独特のただならぬ気配に押し込められたというわけではない。 彼女は長い戦闘経験から自分の会心の一撃を3発~4発打ちこまなければ目の前の敵が沈まないであろうことを察知したのだ。 複数回拳を打ちこもうとすれば必然的に隙が発生する。 そして隙ができれば幽霊の後ろに控えている魔人に仕留められてしまう。 故に殴らず静観は武道家である重川らしい合理的な判断だったと言えよう。 そんな重川の様子を見てすぅっと深く息を吸ってから、みれんはありったけの大声を張りあげた。 「私がここにいる限りこれより先は無いと思って下さい!!! 誰ひとり通しません!! 誰ひとり死なせません!! 私が死んでも守ります!!」 こうして幽霊と古参主力達によるB廊下防衛戦がはじまったのである。 なお、この声を聞いた新参陣営ベンチから「ジブンもう死んどるんとちゃうんかーい!!」という関西弁がやまびこのように響いてきたことを追記しておく。 新参陣営と古参陣営がB廊下を巡って火花散る攻防を繰り広げているそのさなか、「奴」は古参陣営の奥深くに現れた。 「奴」は所謂転校生と呼ばれる存在だった。 経験豊富なダンゲロスプレイヤーにとっては周知の事実だが、転校生というのはインベーダーゲームでいうところのボーナスUFOのような存在であり、出現と同時に各陣営にポイント目当てに命を狙われてしまう大変不憫な役割なのだ。 過去のある転校生は登場直後に瀕死にされた上に童貞を奪われ放置された。 またある転校生は焼きそばパンを食べさせられて瀕死になった上に隅っこで戦いが終わるまで放置された。 この瀕死からの放置プレイはダンゲロスの歴史を重ねるにつれ伝統芸能のように確立されていき、それに比例して当初「異界から召喚されし、圧倒的な戦闘力を持つ魔人」という触れ込みで一般魔人を震え上がらせていた転校生の威厳は地に落ちていったのである。 故に今日の新参対古参の戦いにおいても、両陣営共に転校生に対してそこまでの警戒心を抱いておらず、「まぁでてきたら殺してやろう」程度の認識しかなかった。 だが「奴」はその認識を真っ向から裏切り、両陣営に衝撃を与えたのだ。 「奴」の名は「HET壮九郎」といった。 HETとはハイパーエリート転校生の略である。 HET壮九郎は自身のようなハイパーエリート以外の者に生きる価値は無いという考えの元、視界内に入ったHHE(非ハイパーエリート)を片っ端から灼き尽くす特性を持った転校生であった。 なお、HET壮九郎の定める基準を満たすHEは希望崎学園内に存在していないため、つまるところ現在古参対新参に参加している全ての魔人が彼の抹殺対象となるのだ。 そのHETは実にHE然とした優雅な振る舞いで登場し、手始めにたまたま視界に入ったHHE魔人を殴り殺した。 この仕事の早さこそHETがHETたる所以である。 そしてその殴り殺されたHHE魔人というのが誰ならぬ古参陣営リーダー・アキカンであったことにより戦況は一変する。 阿野次のもじの歌によってただでさえ精神を削られていた古参魔人達は、突然のリーダーの死に直面して半狂乱状態に陥った。 さらに古参陣営にとって都合の悪い事にはアキカンが死んだことにより、アキカンが重川と六埜九兵衛(ろくのきゅうべえ)にかけていた能力が解除されたのだ。 一方、新参陣営も前線に出ていた重川の不気味な付与が霧散したことからアキカンの死を察して、今が好機と総攻撃をかけることを決意する。 →熱を帯びるB廊下の攻防! 戦いはいよいよ佳境へ! 次回! 激動波乱な第4ターン! 【激動波乱な第4ターン】 一人孤独にB廊下防衛に勤しんだ幽霊少女は当初の宣言通り誰も通すことなく、約30分もの長い間この場所を守り通した。 その彼女の眼前には息遣いこそ荒くなったものの未だ凛とした構えを解かずにいる重川がいた。 重川はみれんと対峙して構えた瞬間から今まで、構えを崩さず睨み合いを続けていたのである。 しかしそこは人間と幽霊、多少の不意打ちを貰っても死にはしない幽霊に対して不意打ち一発で死んでしまう人間の方が危機感を持って対峙しなければならない。 後の後であろうと、とれさえすれば及第点が貰える幽霊と最低でも後の先をとらなくては落第の人間とでは比べるまでもなく後者の方が不利なのである。 そして如何に師範クラスの使い手といえど、気を充実させたまま構え続けるには大変な気力と体力を要するのだ。 それらの差が現在までに蓄積された疲労の差として如実に表れてきている。 あまり疲労の色が見えないみれんに対しずっと気を張り詰めてきた重川の全身からはおびただしい量の汗が噴き出ていた。 その汗ははじめうっすらと浮かんでいた程度だったのだが、10分、20分と経つにつれ徐々に粒状なり、やがて統合され流れへと収束していった。 そうして今、収束した一筋の汗が彼女の額から瞳に向かい流れだした。 これを拭うためやむなく重川は一足一拳の間合いから飛び退く。 離れて額を拭う重川を見て一瞬だけみれんは気を緩めた。 そして、これが勝負の分かれ目となったのである。 梨咲みれんの胸から下が爆ぜた。 ―――――増援として呼び出された古参魔人・錫原 呂々郎(すずはら ろろろ)は自らの不幸と、不幸ばかりを与えてくるどうしようもない世界を呪った。 はじめに、増援として呼び出された位置からして致命的に不幸だった。 よりにもよって新参陣営のど真ん中、しかも新参のリーダーである稲荷山和理の目の前に召喚されてしまったのだ。 新参の魔人達に囲まれ、魂を握る即死寿司職人・稲荷山を前にして、これはたまったものではないと自陣営を目指して遁走を計った呂々郎であったが、当然のように稲荷山が後を追いかけてきた。 それでも「きっと手薄なD廊下からなら自陣営に脱出できるはず」という希望にすがって呂々郎は逃走を続けていたのだが、その希望は儚く打ち砕かれることとなったのだ。 「またこんな役か…」 呂々郎唯一の脱出経路上には新参陣営の刺客が立ちふさがっていたのである。 「あなたにぴいぃぃぃぃ~~~ったりな特殊能力! 見せてちょおおだあああぁあああああいいい!!!!」 まるでそれはお伽噺に出てくる怪物のような魔人だった。 魂を喰らう鬼、人を喰らう山姥、そんな怪物達が呂々郎の脳裏をよぎった。 生殖器や性本能を持ち合わせていない呂々郎の関心は向かなかったが、内腿にぬらぬらと輝いている淫蜜がその魔人の危険さを際立たせていた。 前門の痴女後門の寿司職人。 将棋やチェスでいうところのチェックメイトに嵌った呂々郎は、こうして世界を呪ったのであった。 ―――――重川が事態を理解した頃には、全てが終わっていた。 『私が飛び退いて汗を拭った瞬間、目の前の幽霊が爆ぜた。 そしてその爆発と同時に床スレスレの軌道を描きながら銀の閃光がこちらに向かって来て、 私が迎撃に繰り出した下段突きをかわしたその閃光は、 カウンター気味に私の水月に手刀を深々と差し込んだ、…か。 低い姿勢での高速移動技術とそれを支える強靭な足腰。 私の下段突きをものともしない良い目と勝負度胸。 この肉体を貫くほどに鍛えられた鋭利な手刀。 なるほどどうして―――――』 「―――――御美事(おみごと)!」 この一瞬の攻防を重川は回想し、そう一言だけ言い残して崩れ落ちた。 重川紗鳥、即死。 重川を刺した銀髪の少年は重川の中から血まみれの右手を引き抜く。 そして彼は死体となった重川を優しく寝かせると古参陣営の方に向かい肘から先をゆるやかに回し、半身の戦闘姿勢を取った。 彼は強者ぞろいの希望崎学園一号生の中でも屈指の拳法の実力を持つ痩身銀髪の美少年 「行方橋くん!!」 ようやく彼の正体に気付いたみれんが歓声を上げる。 そう、銀髪の少年の正体は数十分前にリタイアしたかと思われた行方橋ダビデだったのだ。 相変わらず精神的にも肉体的にもボロボロで言葉を発する余力は無いようだが、その眼には消えていた闘志が再び戻っていた。 (この脅威の復活劇の裏には彼の恋人である左高 速右(さたかしゆう)の活躍があったのだが、ここでは割愛する。) 「…って!!いくら私が幽霊だからってこんな乱暴なことしちゃだめですよ!! 私が死んじゃったらどうするんですか!? すごくびっくりして心臓止まるかと思いましたよ!!!」 と、自分が目暗ましとして使われたことに対してプンプンと腹を立てているみれんをダビデは片手で制した。 目前に、あの緑風を葬った精神即死魔人・月宮が迫ってきていたのだ。 多少回復したとはいえ未だダビデの精神はゼロであり、対する月宮は能力休みも解け万全の状態。 まともにぶつかったとき、どちらに軍配が上がるかは明らかだった。 しかしダビデは一歩も引こうとしない。 親友・緑風を殺した魔人に、刺し違えてでも一発ブチ込んでやりたいという想いが彼に引くという選択肢を与えなかったのだ。 それを知ってか知らずか月宮はニッコリ笑うと月の力を秘めた即死ステッキを構え、一騎打ちを誘った。 むろんそれは遠間からの誘いであり、いかに拳法の達人といえども一瞬のうちに詰めることのできない距離がダビデと月宮の間に存在していた。 それでも不利を承知でダビデは駆けた。 対重川戦で見せたのと同じ閃光を思わせるほどの疾走ではあったが、ステッキを振りおろしきるまでにかかる時間はあまりに短く、行方橋ダビデぼ即死は避けられないかと思われた。 しかし、 「あまり調子に乗ってると裏 世 界 で ひ っ そ り 幕 を 閉 じ る」 月宮がステッキを振り終わるより早く、ある新参魔人の能力により月宮はいくえ不明になったのである。 月宮クズレ、永続戦線離脱。 「し、師匠!!!」 予想外の助太刀の主を視界に捉えたみれんがまたしても歓声を上げた。 彼女が師匠と呼び敬愛するその魔人は新参陣営の二枚盾が一人、名を「武論斗さん」と言った。 彼の能力はビビりが鬼なった貧弱一般人を全身からかもし出すプレシャーでズタズタにして、 病院送りにして栄養食を食べさせるという論理能力である。 「師匠が来てくれて心強いです!!」 「シレンは見事な仕事だと関心はするがどこもおかしくはない」 お互いがお互いを認めあっている二枚盾の二人は、戦場での再会を心から喜んだ。 そしてついに並び揃った二枚盾の壮観さにあてられた新参魔人達は「きた!盾きた!」「メイン盾きた!」「これで勝つる!」と口々に持て囃し、大歓迎状態だった。 しかし、わいやわいやと浮足立った新参陣営を想像を絶する悲しみが襲った。 最初にそれに気付いたのは遅れて来たメイン盾だった。 「…この怒りはしばらくおさまる事を知らない」 彼が憤怒の炎を燃やす理由は視線の先にあった。 そこには先程まで獅子奮迅の働きを見せていた行方橋ダビデの死体があったのだ。 →さらばダビデ!マスター・チャイナ暁に死す! 次回! 大団円な第5ターン!
https://w.atwiki.jp/c-stock/pages/65.html
SS1 SS2 SS3 SS4 SS1 それでは少し惚気話をしようか。 あれはいつのことだったか。 私と彼女が特に親密な付き合いを始めた頃のこと。 私と彼女が生涯を誓い合った後のこと。 そして、私と彼女の今だ。 □□□ 「何かしら?」 私が目の前、やや下方にある艶やかな黒髪を撫でると、彼女はそう問うた。 もちろん私が何をしたいか分かっていて、あしらっているだけだ。 「そんなところを触られたら、スイッチが入っちゃうわよ?」 特に熱が篭っている訳でもない、冷ややかな声音のまま、彼女はそう言う。 もちろん私はその行為を止めようとはしない。初めからスイッチを入れる気なのだから。 「あなた、さっき病院に行って栄養剤を注射されて帰ってきたばかりでしょう?」 特に私の身体を労わる風でもない、冷ややかな表情のまま、彼女はそう言う。 もちろん私がそんな程度で彼女を構うことを止めるはずもない。 病める時も、健やかなる時も、私は彼女と共に―― 「あなたは馬鹿ね」 「知っているさ」 ■■■ 「あなたは何がしたいの?」 私の顔の下で、彼女の漆黒の瞳が私を見上げる。 私は言葉は不要と、彼女の奥深くまで、探索を続ける。 「もう新しい発見なんてないでしょう?」 不安も、不満も感じさせない仕草で、彼女は私の両目をその小さな手で覆う。 私は目を封じられようと困ることはない。 彼女の身体の奥の奥、その一番奥の最深まで、道順は空で覚えている。 私が彼女に関する事柄を辞典に纏めるなら、2冊の辞典が完成されるだろう。 「あなたは何を望んでいるの?」 興味も、疑問も見えない彼女の声色。 私の答えは決まっている。例えその日に新たな決断を迫られようと。 「君と共にどこまでも」 「無理ね」 「どうして?」 「私は今度、オンラインの世界へ旅立つから。あなたにそんな時間はないでしょう?」 「人は3時間も寝られれば十分だそうだね」 彼女の鋭い眼差しが私を刺す。 私の微笑みがその視線を迎え入れる。 「あなたは馬鹿ね」 「知っているさ」 □□□ オンラインの世界は秘境だった。 時に下水道へ潜り、時に密林へ赴き、時に城跡へ足を踏み入れる。 未知の怪物が襲いかかり、未知の罠が張り巡らされ、未知の人々と策を弄しあう。 手に持つ武器は易々と折れ砕け、敵は尽きず、辺りには死体が転がる。 秩序の維持にメンテナンスは欠かせず、何も出来ぬ己に歯噛みする。 そんな未踏の領域で、ある日、私の前を行く彼女は立ち止まり、振り返った。 ただひたすらに耐え、無限に耐え、彼女を追ってきた私に、彼女は問うた。 「あなた、なぜついてきたの?」 もちろん私が何と答えるか分かっていて、あしらっているだけだ。 「君が行くと言ったから」――私の答えに、 彼女は喜びの表情を見せるだろうか。感謝の言葉を返すだろうか。否。 「これをあげるわ」 艶やかな黒髪が揺れ、漆黒の瞳が煌き、冷ややかな声音で、彼女は宝箱を差し出す。 そうでなくてはいけない。そうでなければ彼女らしくもない。 「ありがとう」 私は彼女に微笑みかけ、感謝の言葉を返す。 「あなたは馬鹿ね」 「知っているさ」 こうして私は爆発した。 SS2 それでは少し、彼女について話そうか。 □□□ 「ささやき - えいしょう - いのり - ねんじろ!」 彼女は今日もまた一人、それほど親しいわけでもない人間を絶望の海へ沈めている。 そんな彼女は可愛らしい。 「奇襲 - 首切り - 灰 - ロスト!」 彼女は今日もまた一人、すっかり打ち解けたと思い上がった人間を奈落の底へ放っている。 そんな彼女は美しい。 「君は相変わらず厳しいね」 私は笑顔でそう告げる。 彼女は初対面の者にも、慣れ親しんだ者にも、等しく容赦しない。 物事は段階を踏んで――そんな理屈は通らない。 いわば、レベル1からレベル2になるのが特に厳しいのだ。 極めた先に安泰あり――そんな言葉も通じない。 いわば、レベル100でも一瞬で全てが灰になるのだ。 「あなたは優しくして欲しいのかしら?」 関心も無さそうに彼女は問うた。 それも大変魅力的だけど、と、私は笑顔でかぶりを振る。 平穏なんて、君と共にあるこの緊張には比べるべくもない。 最初からクライマックス――そして最後までクライマックス。 平らかな時など、死んだ後に全て回してしまえばよい。 君といる時に胸高鳴らせず、いつこの胸を鳴らせというのか。 存分に蹂躙してくれて結構。 「あなたは馬鹿ね」 「知っているさ」 ■■■ 「エナジードレイン!」 彼女は今日もまた一人、それほど親しいわけでもない人間の苦労を水泡に帰している。 そんな彼女は輝かしい。 「壁の中に入ってしまった!」 彼女は今日もまた一人、すっかり打ち解けたと思い上がった人間の努力を灰燼に帰している。 そんな彼女は神々しい。 「君は相変わらず人の努力を踏みにじるね」 私は笑顔でそう告げる。 彼女は積み重ねたものを崩すのが好きだ。 どこまでもどこまでも先へ進んだ者を、一瞬で己の足元へ引き戻すことを喜びとする。 彼女を前にしたら、どのような努力も、研鑽も、決して完成を見ることはない。 「あなたはゴールへ到達したいのかしら?」 意味も無さそうに彼女は問うた。 それも素敵な事だけど、と、私は笑顔でかぶりを振る。 達成感なんて、君を追い続けるこの渇望には及ぶべくもない。 完成なし――故に完了なし。 安らかなる時など、死んだ後に全て追いやってしまえばよい。 君といる時に足を動かさず、いつこの足を働かせればよいというのか。 登る山の頂など見えなくて結構。 「あなたは馬鹿ね」 「知っているさ」 □□□ 彼女はいつでも誰にでも厳しい。 彼女はどこまでも無慈悲だ。 彼女について、おおまかにはこれだけ知っていればよいだろう。 これ以上詳しく話そうとしたら、千夜一夜じゃ収まらない。 だがもうひとつ、彼女について忘れてはならないことがある。 「これをあげるわ」 「この宝箱は開けても大丈夫なのかな?」 「95%の確率で何も起こらないわ」 「本当に開けても何も起こらないかな?」 「ええ、もう一度言うわ。95%の確率で何も起こらない」 「それじゃあ開けさせてもらうよ。ありがとう」 彼女はとても嘘吐きだ。 「あなたは馬鹿ね」 「知っているさ」 こうして私は爆発した。 SS3 それでは少し、自分語りでもしようか。 □□□ 「あなたは何で諦めないの?」 その冷たい瞳で私を見据えながら、彼女は問うた。 何度墓石の下へ送り込まれても、 どこまでも迷宮をさまよい歩かされても、 いつまでも暗闇の中を引きずり回されても、 どれほど大切なものを捨てられても、 どれだけ積み重ねた努力をふいにされても、 行き着く先はいつもいしのなかだとしても、 私は彼女を追うことを止めようとはしない。 「私は君を信じているからね」 「私の何を信じられるというのかしら」 「君は私を他の誰よりも酷い目に遭わせてくれると、信じているからね」 私は微笑む。 彼女はその冷たい瞳で私を見据える。 「あなたは馬鹿ね」 「知っているさ」 ■■■ 「あなたは厳しい女が好みなのかしら?」 その凍えるような声音で、彼女は問うた。 決してそんなことはない。 私に優しく接してくれる人と、これまでに多く出会ってきた。 そして、その人達もやはりとても魅力的だった。 あるいは多彩で、あるいは多芸で、 あるいは饒舌で、あるいは親切で、 そういった優しい人達によって、私は育まれてきた。 そういった優しい人達が、私は好きだ。 ただ…… 「そういった人達よりも、不意に訪れるいしのなかの方が魅力的だというだけさ」 私は微笑む。 彼女はその凍えるような声音で応える。 「あなたは馬鹿ね」 「知っているさ」 □□□ 「あなたは結局、何が好きなのかしら?」 その凍てつくような表情で、彼女は問うた。 もちろん、私が何と答えるかは分かりきっているだろう。ただのあしらいだ。 私の手元には既にひとつの宝箱。 彼女からのプレゼントだ。 これを開錠する前に、言うべきことを言っておこう。 私は何が好きなのか。 簡単な話だ。 つまり私は、 こういう風にプレゼントを渡してくれる―― そして、その時にそんな表情を私に向けてくれる―― 「君が好きなんだよ」 私は微笑む。 彼女はその凍てつくような表情を私に返す。 「あなたは馬鹿ね」 「知っているさ」 こうして私は爆発した。 SS4 「知っているかしら?」 「何をかな?」 長い、長いウェディングロードを歩き、その果てに―― 深い、深いヴァージンロードを歩み、その深奥に―― 誓いの場に立つ彼女が、 同じく誓いの場に立つ私に向けて問うた。 「知りて行わざるは、ただ是れ未だ知らざるなり」 「陽明学だったかな?」 純白のヴェールの下で、彼女の冷たい瞳が煌く。 彼女はウェディングドレスの裾を踏まぬように、ゆっくりとこちらへ向き直った。 「あなたは馬鹿ね」 「知っているさ」 彼女と私と、二人の、お決まりのやりとり。 彼女はお決まりのように、冷ややかな表情を浮かべる。 「知っているならなぜ繰り返すのかしら?」 爆発は日常茶飯事で、 墓石の下へ蹴り込まれ、 暗闇の中へ押し込められ、 先の分からぬ迷路で戸惑い、 最後にはいしのなかへと至る。 もう何度繰り返したことだろう。 だがそれは学ばないからじゃない。 己の馬鹿さを知らないからじゃない。 むしろ、しっかりと、知っているから―― 「君が笑ってくれることを知っているからさ」 彼女はその暴虐を行うとき、とても楽しそうに笑う。 厳しく、冷たく、凍えるような、雪を頂く峻嶺のような笑顔を。 彼女は他の誰よりも私に対してその暴虐を振るう。 私は他の誰よりも彼女を笑顔にすることができる。 君の笑顔を見られるのなら、私は馬鹿でかまわない。 「いいのかしら?」 「いいんだよ」 白く輝くウェディングドレスの中、 彼女の艶めく黒髪が揺れ、 彼女の漆黒の瞳が煌き、 彼女は凍てつくような――笑顔を浮かべる。 私は彼女と共にいる限り、何事にも、何者にも、負けはしない。 なぜならば、 私の愛する勝利の女神は、 そのサディスティックな微笑を、 常に私へ向けるのだから。 「病めるときも、健やかなるときも、 悲しみのときも、喜びのときも、貧しいときも、富めるときも、 あなたを愛し、あなたを敬い、あなたを慰め、あなたを助け、 この命ある限り、あなたの笑顔を護ることを誓います」 「病めるときも、健やかなるときも、 悲しみのときも、喜びのときも、貧しいときも、富めるときも、 あなたを爆破し、毒を盛り、墓石の下へ送り、いしのなかへ届け、 この命ある限り、あなたに波乱を与えることを誓うわ」 ありがとう 大魔導師リィ 私は そんな あなたが 大好きだ! 「馬鹿」 こうして私達は結ばれた。 これにて私の語らいは終幕と致しましょう。 それでは、ここにお集まりの皆々様、 どうか、私と彼女との末永き幸福の前途へ、その真心からの祝福を――
https://w.atwiki.jp/wiki9_vipac/pages/272.html
『生まれ持った義務を、果たしたまえ』 ある日、祖父はジャウザーにこう言った。 ジャウザーが怪訝そうにすると、祖父は続けて言ってくる。 『我々は、極めて裕福な家庭だ。普通の人々より家にも、食べ物にも恵まれている』 幼いジャウザーとて、それくらいは理解していた。 自分の家は友人のそれよりもかなり大きかったし、人からもよく「金持ちだ」と言われてきた。なにせ、これでも『企業』のはしくれなのである。 『だがね、ジャウザー。裕福さを享受するだけでは、ダメなのだ。 人よりも大きな恵みを受け、人よりもよい生活を送るならば――相応の「義理」を尽くさなければならない。 我々――企業側は、利益だけを追究するべきではないのだ。 我々に、貴重な労働力や資源を捧げてくれる人々に――我々も、企業もまた、奉仕するべきなのだ』 祖父はそこで言葉を切り、続けた。 『給料も、確かに重要な見返りの一つだろう。 だがそれだけでは足りないと思う。 「誠意」だよ、ジャウザー。金を払うだけでは、「誠意」は伝わらないと思うのだ』 ジャウザーは、そこでごくりと唾を飲み込んだ。 祖父が奇妙なほどの圧迫感を発し始めたからだ。 『……我々に、貴重な労働力を奉仕し、時には――命さえかけてくれる彼らには、我々も体を張って報いなければならない』 祖父は、懐から何かを――四角いリモコンを取り出した。 それを高い天井に向けて、おもむろにボタンを押す。 ピッという電子音と、大型モーターの起動音が同時に響いた。 『闘うということだ、ジャウザー。 我々は体を張って、この混乱した時代、彼らの――我々に奉仕してくれる人々を、あらゆる危険から守るべきだ。 人々に、笑顔の絶えさせることないように……。 これが「誠意」というものだろう』 聞きながら、ジャウザーは祖父が軍人であり――レイヴンだったことを思いだした。 平行して、家系そのものに軍人が多いことも。 そう言えば、この家は中世騎士の家系であり、その考え――民を守る騎士――が綿々と受け継がれていると聞いたこともある。 『古くさい考え方かもしれん。外で、無闇に口には出すな。笑われるだけではすまんだろう。 だが――少なくとも我々は、先祖代々この考えが正しいと信じている。 権力の上に胡座をかいて、下で働く人々に金だけをばらまいて――それで誠意が果たされるとは思えない』 ガシャン、と上で金属音がした。 見ると天井が、地割れのような音を立てつつ、左右に開いていく。 『まぁ……見たまえ』 ぽっかりと開いた天井の隙間、そこから『何か』が降りてきた。 ハンガーに吊された、人型のなにか――それがゆっくりとここに降りてくる。 降下モーターの駆動音が、どうしてか猛獣のうなり声に聞こえた。 『……分かるね?』 たっぷりと時間を掛け、ついに『それ』が床に降り立った。 青にカラーリングされた、武骨で逞しい二脚兵器だ。右手に銃を、左手にブレードを、背中にはキャノンとミサイルを背負った重武装でもある。 スコープ型の頭部カメラが、朝日できらりと輝いた。 『ACだよ』 ジャウザーは、目の前の機体が獰猛に笑った気がした。 『名前はヘヴンズレイ。 近距離に特化したACだ。最高速度は四〇〇を優に超え、中量二脚だが、運動性能では軽量二脚にもひけをとるまい。 装甲は薄目だが、その分内装を頑強にしてある。総合的なタフネスは、かなり上位に入るだろう』 祖父はリモコンをしまいながら続けた。 『ただし、扱いは難しい。 非常に高いレベルでの、心技体の充実が求められるだろう。 扱えれば強力だが、並みに腕ではろくに動かすこともできまい。 そもそも……』 祖父は、そこで言葉を止めた。 ジャウザーが顔を青くしていることに気づいたのだろう。 『……やはり、闘ったりするのは、怖いか』 落胆と、安堵と、愛情――そういった諸々を含ませながら、祖父は孫に言い聞かせた。 『なら、それもいい。これは非常に古い考えだ。 人類が地下に潜るさらに前、人類がまだ電気を知らず、神や悪魔が真面目に語られていた時代の話だ。 それに馴染めないと考えるなら……それもまた、よしだ。 実際、お前の兄と父はこの考えを拒んでいる。「一心に経営のことだけを考え、そこで得た利益を、人々に配分していく姿勢の方がより善い」……だそうだ。それもよし』 祖父は寂しげに笑った。 『強制はしないし、できないよ、ジャウザー。 こういう考えが消えるのも……時代の流れというものだ。 だが、人々に――社会に奉仕する上では、こういう道も取りうるということを、一族の者として……知っていてくれたまえよ……』 もう八年も前のことになる。 * 結果から言えば、ジャウザーは祖父の申し出を受け入れた。 数日後の夜、一人で祖父の部屋に訪れ、言ったのだ。 『やります』 と。 自分に経営の才はなかった。だが戦闘に関わる運動面では、他の誰よりも優れたものを持っていた。 決して易い道ではないだろう、命を奪われることも、奪うこともあるだろう。だがこれが、自分の素質に見合った、人々に尽くせる最良の道であるのなら――考えに考えた末、やってみようと思ったのだ。 だが、そういった理屈だけでもなかった。 祖父の言う古くさい『騎士道』、それは恐ろしくもあった。が、何か感じるものもあった。 遺伝子レベルで刷り込まれた、ジャウザーの本質たる「何か」――それが祖父の『騎士道』に、考えれば考えるほど、強烈に反応していったのである。 現に、ジャウザーは結局一週間もしない内に祖父の考えを取り込み、行動原理の一つに据えてしまった。 並大抵の適応ではない。やはり、ジャウザーは祖父の考えに、親和性を持っていたはずだろう。 しかし――この時のジャウザーは、別の能力に欠けていた。 『視野の広さ』である。 生まれ持った愚直さのせいか、それとも一四という若年のせいか――この時のジャウザーの視野は、極端に狭かった。 『騎士』には、正しさを見極める『視野』が必要なのであるが、ジャウザーはそれを欠いていたのである。 本来なら、それは祖父が教えるべきものなのだが――彼はそれを教えるまえに、病で他界してしまった。 無論、幾つか大事な教えも授かったが、それだけだ。ひょっとすれば、ジャウザー自身が気づくことを望んだのかもしれないが――とにかく、祖父は『視野の広さ』を鍛えなかったのである。 そしてこのことが、ジャウザーの人生を大きく狂わせた。 数年後、『クレスト』の『勧誘』にはまったのである。 『クレスト』は、来るべき決戦に備えて専属のレイヴンを欲していた。 そんな彼らが、若くして超上級者向けのACを操る、ジャウザーという天才に目を向けたのは――自然なことだろう。 彼らは、様々な手段でジャウザーを誘い込んだ。 代表者自らが食事に招きもした。手紙を送ったりもした。 穏健派という評判を駆使して、とにかく『平和を愛する善良な企業』という印象を植え付けていった。 そして、ジャウザーはそれらに『洗脳』されてしまった。数ヶ月も保たなかった。 『クレストは騎士道に富んだ企業である。その企業に尽くすことは、力無き人々に尽くすことでもあるだろう。ならば、自分はクレストに自らを捧げよう』――まことにあっけなく、こう思い込んだのである。 正義感に燃え、行動力に富み、呆れるほどに愚直――こういう若造ほど、操り易い者もいまい。百戦錬磨のクレスト外交陣にとっては、尚更である。 現に、ジャウザーは家を飛び出し、クレスト専属となった。そこで、クレストの正義を疑うこともせず、延々と任務をこなしていった。 人質を全員殺せとか、罪もない民間人を射殺しろといった、あまりにも露骨な命令でもあれば、ジャウザーも疑ったかも知れないが――ジャウザーは、愚直ではあるが愚鈍ではない――幸か不幸か、そういった命令は出されなかった。 ジャウザーに出すのは、それなりの大義がある、あるいはそう装った依頼ばかりである。 それ故、彼は疑わなかった。 疑いもせず、クレストがアランアンスへ名前を変えた後までも、延々と忠勤を続けていた。 無論、バーテックスが戦線布告した、この日でも。 だが―― (これは、さすがに……!) 草木も眠る、午前四時。ビル郡の片隅で、ジャウザーは沈痛な息を吐いていた。 今やすっかり馴染みとなった愛機――ヘヴンズレイの中で、出撃の司令を待ちながら。 待機しているのは、アライアンスより依頼を受け、現地に到達したはいいが、少々早く来すぎたためだ。 ACは、本来なら序盤より投入すべき戦力なのだが――今回彼に与えられた任務は『奇襲』である。タイミングが大事であり、当然投入が早すぎれば十分な戦果は挙げられない。 それ故、あまりに到着が早すぎたヘヴンズレイは、旧ナイアー産業区の片隅でもう三十分も「お預け」を喰らっている。 (……本当に、どうしてこんなことに……!) そんな状況で、ジャウザーは頭を抱えていた。 戦闘の直前だというのに、その顔に覇気はなく、代わりに濃厚な悩みが渦巻いている。 「どうして……!」 顔を伏せ、噛みしめるように呟いた。 『洗脳』に掴まり、悩みなど持たなかった頃とは違う態度である。 その様子に、通信機から呆れ混じりの応えが来た。 『またそれか、ジャウザー』 オペレーター――マディスンだった。四年来のつきあいである親友は、悩めるジャウザーをぴしゃりと叩く。 『悩むなとは言わないが……今は忘れておけ。悩みを抱えたままで勝てるほど、敵も甘くはないだろう』 「……それは、分かってますが……」 『いいか、ジャウザー。お前が強いのは、がむしゃらだからだ。 何も考えずに、ひたすら敵を倒すことだけを考え、そこに天賦の才をひたすらに注ぐ――今までそういう姿勢だったからだ。 だがな、ジャウザー。悩みはそれを鈍らす天敵だぞ。悪いことは言わん、今は忘れろ』 「しかし……」 ジャウザーが応えあぐねるのも無理はない。 忘れられるわけがないのだ。 なにせ、ジャウザーが抱える悩みとは、今アライアンスに従属することの是非そのものだからだ。 『ジャウザー……』 マディスンは静かに言った。 『いいか、お前は疲れてるんだ。この戦いが終わって、酒飲んで、ぐっすり眠れば……割り切れるさ』 「……無理だと思います」 『おいおい』 ジャウザーは、耐えきれずに叫んだ。 「では、あなたは我慢できるのですかっ? あんなことに……!」 今度はマディスンが黙った。たっぷりと沈黙を置いてから、重々しく返す。 『仕事だからな』 「……私は我慢できません!」 数時間前の出来事を思い出し、ジャウザーはぎりりと歯を食いしばった。 「……あそこで粘れば、もっと粘れば、あと十人は救えたはずです。どうして、アライアンスはあんなに早く兵を……兵を引いたんですか!」 ジャウザーの記憶の中では、あの建物の中には――研究施設の中には、まだ十数人が残っていた。 だがアライアンスは兵を引いてしまった。そのせいで、中に残っていた人々は武装勢力によって殺されてしまった。 女子供も含めた人々が、十人以上もだ。 『これ以上やっても勝ち目がない』、『ここで兵を退けばより多くの命を救えるかも知れない』――そういう理由でもあれば、まだジャウザーはまだ納得しただろう。 だがアライアンスの――クレストの応答は、 『「取り残された人々は、技術者ではない。救出しても、我々への経済的な便益は皆無である。よって、作戦は中断する」……てのが理由だったな』 マディスンの言うとおりだった。 アライアンスは、十人の命を『金にならないから』という理由で見捨てたのである。 しかも――こういう出来事は、これだけではない。ジャウザーはこの二四時間だけで、何度も何度も何度も、同じような状況に遭遇し、胸を裂かれるような苦悩に喘いでいる。 異常に見えるかも知れないが、今までジャウザーという人間の根幹を為していた、二つもの――『騎士道の実践』と、『クレストへの忠勤』が、今日に限って真っ二つに矛盾してしまったのだ。 この苦しみようも、当然だろう。 己の芯が、二つに裂かれてしまったのだから。 「……今までも、少しだけ、悩むこともありました。ですが……これは、これは……!」 血を吐くような言葉に、マディスンは冷静な分析で応じた。 『非常時には、組織の「本当の体質」ってものが出るからな。戦時下に入り、表面を取り繕うことができなくなってきた――てなところだろ。 実際……お前も知ってるだろうが、クレストには悪い噂も結構あったしな』 以前なら、そんな言葉はムキになって否定しただろう。しかし、もはやできなかった。 アライアンスのどす黒い部分を、まざまざと見せつけられてしまったのだから。 (……いったい、どうしてこんな……!) 最初の思考に戻った直後、マディスンが時間切れを告げた。 『ジャウザー、出番だ。前線が、敵の重要拠点への通路をこじ開けた。 そこを一気に進んで、本丸を側面より強襲せよ。 ……今までの戦況は最悪だが、これが成功すれば逆転もあり得る。気張って行け』 「……了解しました」 ジャウザーは息を吐き、スティックとボタンで機体を戦闘モードへ移行させた。 アライアンスへの不信は、ある。この数時間だけで、山のように。だがこの作戦には多くの命が――とくに民間人の命が掛かっており、少なくともこの作戦から逃げるわけにはいかない。 自分たちがしくじれば、居住区に逃げてきた人々が、危険に晒されるのだから。 悩みは、依然として楔のように残っているが――それでも、である。 「行きます」 『メインシステム 戦闘モード 起動します』 ジェネレーターが、鉄の咆吼をあげた。 メインカメラの灯が点り、機体の各所から勇ましい駆動音がする。 『迷わず捨てなさい、ジャウザー。君が心に決め、守り通していくとした「本当の芯」は……そんなものではないだろう』 ふと、記憶の中から祖父の声が蘇ったが――ジャウザーはちょっと首を傾げただけだった。 * 旧ナイアー産業区から少し外れた、居住区画。 元々は、産業区で働く人々のベッドタウンとなるべく、計画的に建築された場所であり――それ故、同型のマンションが整然と並ぶという機械じみた構成になっていた。 しかも、特攻兵器の飛来以降住む人口が激減し、ついにバーテックスの占領をもって居住者はゼロ、現在は本物のゴーストタウンとなり果ててしまった場所である。 だが今日に限っては、そんな死んだ街にも人がいた。 七二の民間人が、廃ビルの一つに逃げ込んでいたのである。 「……なんとか、逃げ延びたな」 男が、体育館ほどのホールで呟いた。 静まり返った空間に、声が不気味なほど木霊する。 「ヤツらが攻め込んできたときは、どうなるかと思ったが……なんとかなるもんだ」 壁にもたれつつ、男はちょっと笑ってみせた。だがその表情は引きつっており、無理な笑いであることは明らかだった。 そもそも、こんな状況で笑うことこそが無理なのだが。 「……本当に」 「やめろよ」 続きを、別の声が遮った。立ち上がったのは、男より一回り若い――恐らく十代後半の――若者だ。 若者は疲労のこもった視線を向けて、 「……やめてくれ。気休めにもならないってことは……分かってるんだろ?」 その言い草に、男は息を呑むが――反論はしなかった。俯き、ぎりりと歯を食いしばる。 沈黙がたれ込め、七二人の空気がより暗い方へと流れ始めた。 彼らは、かつてバーテックスの支配下にいたが、何かしらの理由で――金をもらった、借金を肩代わりして貰った、あるいは弱みを握られた――アライアンスへ協力した者達である。 ある者は情報を伝え、またある者は軍の備品を横流しし、またある者は偽の情報で敵の混乱を誘った。 戦争ではよく使われる、市民を利用した攪乱戦術の一つである。本来なら、容疑者の多さ故、極めて発覚しにくい工作のはずだ。 しかし、彼らの一連の行動は数時間前に露見した。 理由は分からない。彼らには知らされない。 だが生命の危機であることは確かだった。バーテックスは、本来民衆に寛容であるが――反面、裏切りには異常に厳しいという側面を見せる。掴まれば、殺されるだろう。実際、バーテックス内部では、同様の出来事が幾つも起こっている。 だから逃げた。 彼らは、仲間について何も知らされていなかったが――同じ方向に逃げる者達とは、自然と合流していった。 その結果が、この七二人である。 彼らは、逃亡先としてここ――居住区を選んだ『元スパイ』達なのだ。 「……でも、ここにアライアンスが軍を展開してたのは、幸運だったわよ。 この分なら、きっとなんとかなるわ」 ふと、窓際の女性が呟いた。 だが彼女とて、アライアンスを信じているわけではあるまい。 その証拠に、その顔色は死人のように青かった。 「どうだかな。ヤツらがおれらを守るかどうかは、わからないぜ」 先程の若者が、嘲るように笑った。 女性の返事にも力がこもる。 「……でも、彼らは私達に気づいているわ」 「気づいてても、おれらを置いて撤退するかも知れないぜ? 現に――押されてたじゃないか。負けそうだったじゃないか。 ここはバーテックスの本拠地だ。アライアンスが、『一度撤退して、ここも――おれたちも含めて――明け渡して、その間に体勢を立て直して、さぁもう一度』……って考えるのは、そう不自然じゃないだろうさ」 自棄になっているのか、馬鹿にしたような態度ではある。だが、若者の言葉は正確だった。 本拠地近くであるせいか、バーテックスの抵抗は凄まじい。そもそも、敗色濃厚だったアライアンスが、ここまでやって来ている時点で奇跡なのである。 実際、彼らが逃げる直前に聞いたラジオでは、アライアンスは今にも撤退しそうだと報じていた。 そして本当に撤退してしまえば――居住区は再びバーテックスに占拠され、彼らは掴まってしまう。 せっかく命からがらアライアンスの陣地まで逃げ込んだのに、みすみす殺されてしまうのだ。 撤退時に、アライアンスが彼らを拾いに来てくれれば話は別だが、今のところ、その兆候さえ――今はまだ、そんな余裕がないというだけかもしれないが――みられない。 一般市民の弱みに付け入るような連中に、倫理観を期待するのも馬鹿らしい話だが。 「でもぉ……」 七二人がいよいよ暗さを増したところで、妙に間延びした声がした。 微妙に舌足らずな、子供の声である。 「助けてくれるって言ってたじゃない。あのお兄ちゃんは」 柱の影から、ちょこちょこと子供が歩み出てきた。 母親らしき中年の女性が、慌ててその手を引っ張って、自らの後ろに隠す。 「『あのお兄ちゃん』?」 若者が首を傾げる。 誰かが、それに補足した。 「レイヴンの人じゃないか? ほら、さっき無線で話したじゃないか。ジャウザー……って言ったか」 その言葉で、全員がつぶさに思い出した。 ここに隠れる彼らの存在に――正確には救難回線で発していたシグナルに――気づき、本隊に報せてくれたのはジャウザーなのである。 彼らはその際、ジャウザー本人と会話したが――そんな電話口でさえ、彼の『必ず助けます』という宣言には無類の頼もしさが感じられた。 今の状況でさえ、一筋の光明が見えてしまうほどに。 だが若者は、それさえもばっさり斬り捨てる。 「口先だけなら、何とでも言えるさ」 四方から抗議の目線が来るが、若者は気にしなかった。芝居がかった口調で、 「レイヴンたって、所詮は雇い主の犬さ。それも……お利口な。 鎖を噛み千切ろうともしやがらねぇ。 しかも、奴の場合は……元々クレストに属していた、筋金入りの――『忠犬』じゃねえかよ」 あんまりな言いようだが、それも真実ではあった。 『傭兵』に『正義』を期待するのもまた、馬鹿げてはいるだろう。彼らとて、契約の元で動いているのだから しかし―― 「わからんよ」 不意に、場違いなほど静かな声がした。 老人特有の、達観を感じさせる口調である。 そして予想に違わず、部屋の中央に座る声の主は――老人だった。髭と皺に覆われた顔が、天井を静かに見つめている。 つられるように、部屋の中もしんと静かになっていった。 「彼は……迷っていたようだ。飼い犬であるべきか、自由となるべきか。 ……もし彼が、自らの誤りと向き合い、そして愛着などをも捨て去って、自由となる道を選ぶなら……我々が助かる見込みは、あるだろうさ」 奇妙な物言いに、若者は顔をしかめた。 「なんだ、そりゃ」 「……彼は、迷っていたようなのだよ。 これまで通り、アライアンスに従うか。それとも――従わずに、我々を優先させるべきか。 そして、もし彼が後者の選択をした場合、例えアライアンスが撤退しそうであっても……彼が我々を助けに来てくれるかもしれない。 そういう話さ」 落ち着き払った、説得力のこもる言葉である。 だが若者は、それに顔をより険しくした。 「どうしてそんなことが分かる」 それに、老人は振り向くことさえなく応じた。 「……目を、失いましてな。何も見えなくなってから、どうも……声や雰囲気だけで、その人の内面が分かるようになりまして。 まぁ、所詮は推測と直感ですからな。信じなくとも、構いませんとも……」 老人は、それきり喋らなくなった。 室内が本当の静寂に包まれる。 そのせいか、遠くから響く砲声と爆音が、やけに近く感じられた。 * 『自分の騎士道』か、『アライアンス』か。 気がつけば、ジャウザーは今日ずっと『アライアンス』の方へ妥協してきた。 理由も、明確だった。 『アライアンス』を捨て去れば――『自らの騎士道』を優先し、アライアンスに反抗すれば、かなり強烈な罰則が適用されるだろう。放逐、という処罰も十分にあり得る。 そのことが、異様なほどに――『洗脳』のせいだろう――恐ろしかった。 それにアライアンスを、企業の正義を否定することは、シャウザーにとって今までのレイヴン歴そのものを否定することだ。 企業に正義がないとすれば、それに従っていた彼にも、正義などなかったことになる。 (……もしそうなら……) 怖い。本当に怖い。今の彼を支える土台が、根底から崩れ去ってしまうのだ。 だから――今日出された、民間人を、技術者を、捕虜を見捨てろという命令にも、流されるままに従ってしまった。 面と向かってアライアンスを非難することなど、できなかったのだ。そんな勇気は、どうしても搾り出せなかったのだ。 (そう、だが……!) 思考が危険な区域に踏み込んだ。 ジャウザーはそれをかき消すように、叫びを上げる。 「うわぁぁ――――――!!」 逃げるように、ブーストペダルを踏みつけた。 一直線のトンネルを、最高速度で突き進む。 その様子は、一振りの槍を連想させた。 『ぇ、AC……!』 通信を傍受。前方からだ。 トンネルの出口付近に、重装型のMTが次々と現れる。 身を挺してまで、戦術的死角への侵攻を阻むつもりだろう。それだけ、ジャウザーの目的地は重視されているということか。 だが強烈な突進力を持つヘヴンズレイにとって、この程度の壁――問題ではない。 すぐさまOBを発動させ、一挙に加速、六〇〇を越える速度で近距離射程に滑り込む。 その間に、左手のブレードからオレンジの刀身が伸ばされていた。 『う、うわ!』 悲鳴をあげるMT、その脇腹にブレードを撃ち込んだ。 即死だ。パイロットも、MTも。 爆発は起きず、ただ倒れ伏しただけだったが――ジャウザーにはそれが分かった。センス、というやつである。 『トーマス!』 倒れたMT、その横にいるオストリッチから悲鳴がする。 ジャウザーは耳を塞ぎたい衝動に駆られつつも、本能的にウェポンクラッチを踏み込み、スラッグガンを起動させていた。 どでかい砲口が、オストリッチにぴたりと照準される。 『おいトーマ……ぇ?』 オストリッチは、ようやく狙われていることに気づいたようだ。 だが遅すぎる。 ジャウザーがトリガーを引くと、一六の弾丸が飛びだし、オストリッチをズタズタに引き裂いた。 これも爆発はせず、倒れただけだが――即死だ。間違いない。ジャウザーの勘は、今日も切ないほどに優れていた。 (……こうやって) 思いながら、レーダーを確認。 右に一機、左に一機。どちらも重装型。 (こうやって私は……!) ブレードを再起動させた。左腕から、オレンジの刀身が発生する。ジャウザーは、その状態で真横に左腕を伸ばした。 MT達は、ジャウザーが何をしようとしてるのかに気づいたようだが――やはり、致命的に遅すぎた。 (こうやって、私は今まで殺してきた……!) そこで、ヘヴンズレイは回転した。コマのように、くるりと。唯一コマと違うのは、必殺の威力を持つ刀身も、回転したということである。 必然的に、その円周上にいた二機は、横に胸を裂かれてしまった。 斬撃の形態上、深くは刻めないが――それでもMTには十分すぎる威力である。 実際、MT達は膝を突き、前のめりに倒れてしまった。起きあがる気配もない。 こちらも――爆発こそしないが、即死だろう。 これで、ジャウザーは全てのMTを、爆発させずに倒したこととなる。 ふと気づけば、ヘヴンズレイはMTの屍に囲まれていた。 『流石だな』 そんな時、マディスンから通信が入った。 『そこらにいるMTはそいつらで全部だ。やはり、ここの守備は疎かになってやがる。 この隙に、エネルギー供給ポッドの方も破壊してくれ。 アライアンスの一発逆転が掛かってる……頼んだぞ』 ジャウザーは、小さく頷いた。消え入りそうな声で、はい、と呟く。 そこでふと――ジャウザーは、倒れるMTに目を向けた。 ヘヴンズレイの足下にいる、オストリッチ――そのパイロットの言葉が、戦友の名前を呼ぶ声が、ジャウザーの脳裏に蘇る。 (そうだ、あれには……MTには、『人』が乗っている) 目を背け、逃げ回ってきた思考――それが、ここぞとばかりに襲いかかってきた。 (……私は……殺してきたんだ!) 敵とはいえ、多くの『人間』を。『大義』もなく。 ジャウザーは、そこに人々を救うためという『意味』があると信じたからこそ、そのような作戦も受けてきた。人殺しにも、耐えてきた。 無論、正義で殺し全てが正当化されるはずもない。だが少なくとも、人々を救うという明確な目標があったはずだ。 しかし、アライアンスに正義が無く、その作戦そのものも、必ずしも正義ではないとするなら――自分は『大義』もなく人を殺してきたということになる。 (……これでは、ただの人殺――!) そこまで考えた瞬間、猛烈な恐怖が襲ってきた。 自らの土台そのものを脅かす、かつてない恐怖――それがジャウザーの腕をがっしりと掴んだ。 心に、ヒビが入る。 「……!」 悲鳴を飲み込み、ジャウザーはブーストペダルを踏みつけた。 この場所から逃げ去るため、エネルギーポッドの場所に向かう。 『向き合い、捨て去る勇気を、持ちなさい』 祖父の言葉が、再び聞こえてくるが――それさえもジャウザーは無視した。 後には、MTの死骸だけが残されている。 * マディスンの、『もうMTはいない』という言葉に嘘はなかった。 ジャウザーは、ビルの谷間をルート通りに進んでいったが、その間、一度も敵に会うことはなかった。 どうやら奇襲は完全に成功しているらしい。MT達を、ほとんど無音で倒したことも大きかった。 (……これなら) そう思ったところで、目的地についた。 クレスト本社ビルの右側面である。正面に立てば、本社ビルに取り付けられたプラズマキャノンより、強力な攻撃を受けるが――側面にいれば、その脅威はない。 ジャウザーは冷静に、ウェポンクラッチから右手のマシンガンを呼び出した。そこから、側面の上部に取り付けられたエネルギー供給ポッドに、EN弾を送り込む。 供給ポッドは、あっさりと火を噴き爆散した。 『ターゲット 残り一』 ヘヴンズレイは、すぐさまクレスト本社ビルの正面に回った。無論、キャノンに襲われないよう、一工夫してある。 実は――正面といえど、すぐ真下を通ればキャノンは作動しないのだ。 かつてクレストに属していただけあって、ジャウザーはその欠陥を知っている。 「これで……!」 ジャウザーは、左側面に回り込んだ。と、その面の上部にある、最後のエネルギー供給ポッドにも狙いを定め――トリガーを、引いた。 緑の光弾が立て続けに発射され、供給ポッドへ襲いかかった。 防弾加工でもないポットは、こちらもあっけなく爆散してしまう。 細かい破片が、ヘヴンズレイをコツコツと叩いてきた。 (……どうだ……?) しばらく耳を澄ませていると、ビル内部から、プラズマキャノンの停止する音がした。確か、このポッドは他の防衛施設にも供給をしていたようだし、きっとバーテックス全体の防衛力も落ちただろう。 『よくやった!』 マディスンが快哉をあげた。 ジャウザーもほっと口元を緩ませる。 アライアンスは、圧倒的に劣勢であるにも関わらず、勢いに任せてここまで攻め込んだ。状況を打開するには、本陣強襲という決死の作戦しかなかったのである。 しかし、アライアンスに長時間敵本拠地で闘うだけの体力はなく――どのみち追い散らされるのが関の山、のはずだった。 だが今、勝利がぐっと近づいた。 囮と挑発を繰り返し、ほとんどの兵力を前線につぎ込ませ、防御の中核たるここを疎かにさせる――その作戦が、ジャウザーと、戦術部隊の命がけの突貫によって成功した。 バーテックスは前線指揮官『烏大老』を亡くしており、それにより敵の指揮系統が鈍っていたのも、幸運だったろう。 だがとにかく、バーテックスの防御は弱まった。これなら、アライアンスの勢いを持ってすればバーテックス本拠に突入、主犯――ジャック・Oさえ捕えられるかも知れない。 (……そうでなくとも、戦線が保てば、彼らの……七二の命は、きっと助かる! 彼らを脱出させる時間が……稼げる!) そう喜びつつ、ジャウザーはふとビルの正面へ向かった。 そこから、高い高いクレスト本社ビルを見上げてみる。 そこにはジャウザーが入団した当初と変わらない、偉容があり――喜びも相まって、少々呑気な懐古感を感じさせた。 「懐かしいですね」 戦闘中であることも忘れ、ついついそう呟いてしまう。 かれこれ五年も前のことなのだが――ここで入団手続きを行い、演説を聞いたことは、まるで昨日のことのように思い出せた。現に、その演説の内容はおろか、演説官が着ていた服さえ、ジャウザーは詳細に話すことができる。 彼のこういった面からも、クレストへの愛着の深さが――『洗脳』の根深さが、透けて見えた。 だが、一方―― (……そうだ、今は……) 自分の状況を思い出し、ジャウザーは暗い気持ちに逆戻りした。 以前ならまだしも、彼はすでにクレストのどす黒い部分を、立て続けに見せられている。 かつてのような純粋な気持ちで、ここを見ることは出来なくなっていた。 (作戦は、成功したが……。 私はこのまま……クレストに属していて、よかったのだろうか) 例の思考に戻った直後、それはやってきた。 オペレーターが慌てて警告する。 『敵ACだ!』 ジャウザーは瞬時にレーダーを確認した。 確かに――いる。赤い点だ。それが、MTではあり得ないスピードでこちらに向かってくる。 ヘヴンズレイは見上げるのをやめ、即座に付近のトンネルへ入った。 オペレーターの驚いた声がする。 『ジャウザーっ?』 「こちらから迎え撃ちます。ひどく無防備でしたが……ここは敵の本拠地、いつ敵部隊が戻ってくるかわかりません。場所を変えなければ、後々不利になるかも知れません」 『……そうか、そうだな』 そこでトンネルが終わった。 出た先は――生産区だ。今までと違い非常に入り組んだ造りとなっているらしく、四方八方で道が折れ、枝分かれし、まるで迷路のようだ。 周りにそそり立つ建物も、軒並み天井付近まで届いており――恐らく、飛び越すこともできないだろう。ここまで来ると、本格的に迷路だ。 そしてその一角にいたらしい敵ACが、こちらを発見したらしい。赤い点が、レーダー上を猛スピードで移動してくる。 (こっちか!) ジャウザーは、敵がやってくるだろう曲がり角にアタリをつけ、そちらに機体を向けた。 だが、その予測は――見事なまでに外れた。 敵は、そもそも『道』を通ってこなかったのである。 『ジャウザー! 違う、道じゃない、「壁の中」だ!』 マディスンが叫んだ。 直後――ジャウザーは信じ難いものをみた。 ジャウザーの見つめる先で、迷路の壁が――壊れた。 外側に歪んだかと思えば、一挙に破裂し、大小の破片をまき散らす。 それと平行して、土煙がもくもくと上がり、穴の付近を覆い隠していく。 「な……!」 ジャウザーが声を漏らした。 無茶苦茶だった。敵ACは、ジャウザーが逃走するとでも考えたのかも知れないが――それにしても、ここまでして、壁を壊してまで急ぐ必要があったのか。 そう驚くジャウザーを知ってか知らずか、敵ACが土煙の中から悠然と歩み出てくる。 緑のモノアイ、マシンガン、そして左手のブレード。かなり好戦的な武装の、二脚ACである。なるほどこの火力なら、弱くなっているところを突けば、穴くらいはあくかもしれない。 そうであっても、やりすぎだが。 現に、舞い上がった砂埃は、ヘヴンズレイの付近にまで漂ってくるほどの量である。 これでは、互いの戦闘にも支障をきたす。 (……何を考えて……!) 思いつつも、ジャウザーは右手のENマシンガンを相手に撃ち放った。 緑の光弾が群をなして相手に突き進み――だがその途中で、全て忽然と消失してしまった。 「なっ」 目を見張るジャウザーだが、敵はその隙を見逃さなかった。 最大速力で一挙に接近、近距離射程に持ち込んだ。 ジャウザーは慌てて下がるが、もとより狭い路地だ、限界もある。すぐに追いつかれてしまった。 「邪魔を……!」 引き剥がそうと、ジャウザーは再びENマシンガンを撃った。 距離が近いこともあり、今度は一応当たったが――それでも威力の減衰は明らかだ。 (どういう……!) ジャウザーは、そこではっとした。 メインモニターの右隅に、緑で[空中伝導率悪化]と表示されている。 ジャウザーの顔から血の気が引いた。 [空中伝導率]とは、『電気』が空中を進む際に受ける、『抵抗』の数値である。[空中伝導率]が高いと、『抵抗』が多いということであり――端的に言えば、電気が空中を移動しづらい状態ということだ。 そして、当然こういう状況下では、EN兵器も抵抗を受け、威力を減算される。常識的な軍事知識だ。 また、砂嵐や霧の中だと、特にこういう状況になりやすい。『砂』や『霧』もまた、せっかく収束されたエネルギーを、かき乱してしまうからだ。 恐らく――敵ACは、『砂』埃を極端なほど舞い上げることによって、意図的にそういう状況を作り出したのだろう。 ジャウザーの主武装――ENマシンガンが途中で消えたり、威力が弱まったりしたのも、きっとこのためだ。 通常のレーザーライフルなら、多少の減衰などものともしないのだが――ENマシンガンは単発威力が低く、そのため少しでも減少されると、全くダメージが通らない場合もあるのだ。先程のように。 「考えてますね……!」 言いながらも、ジャウザーは躊躇していた。 この状況では、本来ならメインとすべきENマシンガンが役に立たない。ならば――パージするべきか、それとも保持しておくべきか。 普段の彼なら、即座にどれかを選択していただろう。 だが、今の彼には戦闘以前の迷いが満ちている。 それらが選択を躊躇させた。集中力を乱していた。 一瞬の隙が、生まれる。 敵のモノアイが妖しげに輝いた。 (! しまっ……!) 敵ACが、ブレードから『突き』を繰り出した。 ジャウザーにとっては、不意の斬撃である。咄嗟に横へ跳ぶが、避けきれず、右肩のエクステンションが上下二つに斬られてしまった。 が、これで終わるわけにもいかない。 ジャウザーは、自身もブレードを起動させ、応戦しようとしたが――途端、敵ACはバックダッシュで間合いを開けた。 そして右手のマシンガンを、こちらにぴたりと向けてくる。 ガシャン、とマガジンに弾が込められる音がした。 『避けろ――――!』 マディスンの言葉通り、ジャウザーはブーストペダルを踏みつけた。そのまま左へスライドダッシュ。 直後、右腕の僅か数メートル外を、弾丸の群が駆けていった。 ヘヴンズレイだから避けられた。他のACならこうはいくまい。 (避けられた……!) だが安心したのも束の間、背後の壁で着弾音が連続する。その後、再び土煙が広がった。 カメラ映像が砂のカーテンに遮られ、もはや視界の確保さえ難しくなってしまう。 (今の攻撃は、ここまで計算して……!) 驚き、警戒し、レーダーを見る。 そこでもう一度愕然とした。敵ACは、この視界が悪い中でも、一直線にこちらに近づいているのだ。 ひょっとしたら――いや、間違いなく暗視スコープ機能を応用して、視界を確保しているのだろう。暗視スコープは赤外線を使うため、雨や砂埃といった、粒子の細かい障害物からは影響を受けないのだ。 実際、ジャウザーは同じようなことを、砂嵐下のミッションで行ったことがある。 だが――それには暗視スコープの強制起動、明度の調整、などを手動でやらなければならないはずだ。本来なら、一分や二分とられるはずの動作である。間違っても、戦闘中、しかもこんな短時間にできるものではないはずだ。 (なんという……手練れ!) 戦慄が全身を駆け抜けた。 これほどの技量を持つ相手が、自分を殺しにきている。その事実が単純に恐ろしかった。 「……くそっ!」 ジャウザーは一瞬躊躇った。が、結局バックダッシュする。 ECMを吐きだして電波障害を起こしつつ、逃げる。オートマップを頼りに、敵ACが作った穴を抜け、そのまま市街区を駆け抜けた。 正直、追ってくると思ったが――どうしてか、敵は追ってこなかった。 ジャウザーSS2